ストレスチェック規程|衛生委員会による調査審議や作成の具体的手順を解説

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構

 ストレスチェック制度を適切に運用し、メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)を成功させるためには、単にストレスチェックを実施するだけでは不十分です。制度の導入に先立ち、事業場のルールを明確に定めた「ストレスチェック制度実施規程(社内規程)」を作成し、全従業員に周知することが求められています。規程が不明確なまま実施してしまうと、個人情報の漏えいや不利益な取扱いの疑いが生じ、従業員との信頼関係が崩れるだけでなく、最悪の場合は法的リスクに発展する恐れもあります。

本記事では、厚生労働省のストレスチェック指針やストレスチェック制度実施マニュアルに基づき、実務担当者が押さえるべき規程作成のポイントを整理します。

ストレスチェック規程の必要性

ストレスチェック制度においては、心身に関する状況やストレスの程度といった要配慮個人情報を取り扱います。ストレスチェックを法令や指針、実施マニュアルといった厚生労働省が定めたルールに準拠しつつ、有効な取り組みとするためには、以下の項目を網羅的、かつストレスチェック制度開始前に検討する必要があります。また、ストレスチェック規程は従業員に公開し、どのようなシステムで取り組みが行われるのかを事前に周知することも大切です。

ストレスチェック規程の概要や必須事項に関する総合的な説明画像
ストレスチェック規程とは?(クリックで拡大)

ストレスチェック規程の役割

ストレスチェック規程の主な作成目的や役割は、以下の3点に集約されます。

重要ポイント 具体的な内容・目的
1. 透明性の確保 誰が、いつ、どのようにストレスチェックを行い、結果がどう扱われるかを明確にすることで、従業員の「受検に対する不安」を解消します。
2. 個人情報の保護 機微な情報であるメンタルヘルス情報の取り扱い範囲を制限し、不正な利用を防止します。
3. 不利益取扱いの防止 ストレスチェック結果や面接指導の申し出を理由とした、解雇や配置転換などの不適切な扱いを禁止することを宣言します。

衛生委員会での調査審議と規程の関係

ストレスチェック指針により、安全衛生委員会にて下記の調査審議を経て文書化されたものが、ストレスチェック制度実施規程となります。

区分 規程に定めるべき具体的な事項
ストレスチェック・
同意取得関連
  • ストレスチェック規程の目的や変更手続き、周知方法
  • 規程の適用範囲(対象)
  • ストレスチェック制度の趣旨等の周知法令
  • ストレスチェック担当者選任の基準
  • ストレスチェックの実施者の特定
  • ストレスチェックの実施事務従事者選任の基準
  • 面接指導の実施者の特定
  • ストレスチェック制度の実施時期
  • ストレスチェックの対象者
  • 受検方法の特定(用紙やWebといった媒体)
  • ストレスチェック制度で用いる調査票の特定
  • ストレスの程度の評価方法や高ストレス者の選定方法
  • ストレスチェック結果の通知方法
  • セルフケアに関する方針
  • 会社への結果提供に関する同意取得の有無や方法
  • 従業員がストレスチェック要する時間の賃金の取扱い(会社負担が原則)
面接指導や集団分析、
個人情報の取り扱い
  • 面接指導の申出の方法
  • 面接指導の実施方法
  • 面接指導結果に基づく医師からの意見聴取方法 等
  • 面接指導結果を踏まえた措置の実施方法
  • 面接指導を受けるのに要する時間の賃金の取扱い
  • 集計・分析の対象集団
  • 集計・分析の方法
  • 集計・分析結果の利用方法
  • ストレスチェック結果の記録の保存担当者
  • ストレスチェック結果の記録の保存期間・保存場所
  • ストレスチェック結果の記録の保存に関するセキュリティの確保
  • 事業者に提供されたストレスチェック結果・面接指導結果の保存方法
  • ストレスチェック結果の共有範囲
  • 面接指導結果の共有範囲
  • 集団ごとの集計・分析結果の共有範囲
  • 健康情報の取扱いの範囲
  • 情報開示等の手続き
  • 苦情申し立ての手続き
  • 守秘義務
  • 会社が行わない行為
  • 施行期日

規程に盛り込むべき項目の具体的解説

ストレスチェックマニュアル(P19-P22)には、規程の具体的なモデル案が掲載されています。これに基づき特に重要な項目を整理します。

規程の構成項目 具体的な規程内容と留意点
① 制度の趣旨・目的の明記 規程の冒頭には、本制度が「メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)」を目的としており、「不調者の発見」を一義的な目的とはしていないことを明記します。これにより、従業員の過度な警戒心を解くことができます(ストレスチェック指針P4)。
② 実施体制の明確化 誰が制度に関与するかを定めます。なお、氏名を特定せず「●●課の職員」といった職名での記載も認められています。

  • 実施者:医師、保健師、または一定の研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師から指名します(ストレスチェックマニュアルP31)。
  • 実施事務従事者:実施者の指示の下、事務(データ入力や結果の送付など)を行う者を指名します。
  • 人事権を持つ者の非関与:解雇、昇進、異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、実施事務従事者になれません(ストレスチェックマニュアルP33)。これは、結果が人事評価に悪用されることを防ぐための極めて重要なルールです。
③ ストレスチェックの実施方法 使用するストレス調査票や判定基準を定めます。

  • ストレス調査票:国が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を使用するか、独自のものにするかを明記します。
  • 高ストレス者の選定:点数による数値基準を定めます。「心身のストレス反応」が著しい者や、ストレス要因と周囲のサポートのバランスが悪い者を選定する基準を、実施者の意見を踏まえて規程に落とし込みます(ストレスチェックマニュアルP43)。
④ 結果の通知と情報の取り扱い ストレスチェック結果がどのように通知されるかや、ストレスチェック情報がどのように扱われるかは、従業員の関心が高い部分であり、丁寧な整理や明記が求められます。

  • 直接本人に通知:結果は実施者から受検者本人に直接通知され、本人の同意なく事業者が結果を入手することはない旨を明記します(ストレスチェック指針P7)。
  • 同意取得の方法:事業者が結果を取得するための同意は、結果通知後に行う必要があります。実施前や実施時に一括して同意を取ることは認められません(ストレスチェック指針P13)。
  • 共有範囲の制限:同意を得て取得した結果を閲覧できる人を「人事労務担当部署の最小限の人数」に限定します。
⑤ 面接指導のプロセス 高ストレス者から申し出があった場合のフローを定めます。

  • 面接指導を希望する際の申し出窓口:プライバシーに配慮した窓口を設定します。また、面接指導を受けようか迷っている従業員に対しての、面接指導制度に関する事前相談窓口の機能も合わせもつとより丁寧でしょう。
  • 費用の負担:面接指導の費用は事業者が負担することを明記します。
  • 賃金の取り扱い:受検や面接指導に要する時間を勤務時間として扱うかどうかを定めます。マニュアルP21の例では「業務時間として取り扱う」とすることが推奨されています。
⑥ 集団分析の結果の活用 部・課単位での集計結果をどのように職場環境改善につなげるかを定めます。ただし、10人未満の集団については、個人が特定される恐れがあるため、原則として全員の同意がない限り事業者に結果を提供できないことに注意が必要です(ストレスチェック指針P14)。

不利益取扱いの禁止を明記する

 従業員が安心して受検するためには、不利益を被らないという保証が不可欠です。「ストレスチェック指針P11」および「ストレスチェックマニュアルP30」に基づき、規程には以下の行為を「行わない」ことを明文化する必要があります。これらを規程に明記し、社内掲示板などで周知することは、事業者の法的なリスクヘッジにもつながるほか、従業員が安心してストレスチェックを受検できる大きな要素となりえます。

No. 禁止される不利益な取扱いの具体的内容
1 「受検しないこと」を理由とした不利益な取扱い(懲戒処分、評価の引き下げ等)。
2 「結果の提供に同意しないこと」を理由とした不利益な取扱い。
3 「面接指導の申し出を行わないこと」を理由とした不利益な取扱い。
4 「面接指導の結果」を理由とした、解雇、契約更新の拒否、退職勧奨。
5 不当な動機・目的に基づく「配置転換」や「役職の変更」。

ストレスチェック規程作成の実務と活用のポイント

実務・運用のポイント 具体的な内容・留意点
人事労務部門や中央安全衛生委員会主導でも可 ストレスチェック規程例は内容も幅広く、実際のところ、衛生委員会の参加者で一から検討や作成を行うことは大変な労力となることが考えられます。まずは人事労務担当者が、厚生労働省の規程例を参考に自社のストレスチェック方針を反映した規程案を作成し、決裁者が確認しておくという流れも一つでしょう。この場合でも安全衛生委員会によるストレスチェック調査審議は必須ですので注意が必要です。
派遣労働者の扱い 派遣労働者については、ストレスチェックの実施義務は「派遣元事業者」にあります。しかし、集団分析については、職場単位での改善が重要であるため、派遣先事業者も派遣労働者を含めて実施することが望ましいとされています(ストレスチェック指針P16)。自社の規程の対象範囲に派遣労働者をどこまで含めるか、衛生委員会で審議しておく必要があります。
小規模事業場(50人未満)の場合 常時50人未満の事業場においては、2028年までストレスチェックの実施は努力義務です。しかし、実施する場合には指針に従う必要があります(ストレスチェックマニュアルP120)。小規模事業場が規程を作成する際、自前での体制構築が難しい場合は、産業保健総合支援センターの地域産業保健センターを活用する旨を規程に盛り込むことも有効です。
周知を怠らない 規程は作成して終わりではありません。ストレスチェック指針P4にある通り、あらかじめ従業員に周知することが運用開始の条件です。イントラネットへの掲載、社内掲示板への提示、または書面の配布など、すべての従業員がいつでも確認できる状態にする必要があります。

ストレスチェック規程に関するよくある質問

Q1. ストレスチェック制度の導入にあたり、実施規程を策定することは法律上の義務ですか?
ストレスチェック指針やマニュアルにおいて、事業者は衛生委員会等での調査審議を経て実施方法等を規程として定め、あらかじめ労働者に周知すべきであると明記されています。法的な手順として策定することが極めて望ましく、運用の透明性を担保するためにも不可欠なプロセスです。
Q2. 作成した規程を、就業規則に包含したり監督署へ届け出たりする必要はありますか?
ストレスチェック規程は、必ずしも就業規則に含める必要はありません。労働基準法第89条の必要記載事項には含まれていないため、独立した規程として運用し、社内で周知されていれば問題ありません。また、規程自体の届出義務もありません。
Q3. 社内文書を作成する際、「規程」という名称を必ず使用しなければならないのですか?
名称に厳格な決まりはありません。自社の社内規定の体系に合わせて「実施要領」「実施細則」「実施計画」「内規」といった名称を使用することも可能です。網羅すべき項目が含まれ、社内の正規文書として従業員に広く周知されていれば有効です。
Q4. 衛生委員会で行う調査審議では、具体的にどのような内容を検討すべきですか?
規程案を元に、実施体制(誰が実施者になるか)、情報の取り扱い(プライバシー保護)、受検勧奨の方法、面接指導の申し出先などが、自社の職場環境にマッチしているかを審議します。スムーズな議論のため、事前に資料を共有しておくことが重要です。
Q5. 多拠点企業において、効率よく衛生委員会での審議や規程策定を進めるコツは?
人事労務部門や中央安全衛生委員会が先行して「全社共通の規程案」や「調査審議の手引き」を作成することをおすすめします。本社が主体となってベースとなる雛形を用意し、各拠点の運営をサポートすることで、企業全体での統一感を持った導入が可能になります。
Q6. 厚生労働省の「モデル規程」をそのまま自社の規程として転用しても問題ありませんか?
モデル規程をベースにすることは有効ですが、実施体制や外部委託先の名称などは企業ごとに異なります。実務と規程の内容に相違があるとトラブル時にリスクとなるため、必ず自社の運用に合わせたカスタマイズを行ってください。
Q7. 「実施事務従事者」に人事担当者が指名される場合、守秘義務に関して何を明記すべきですか?
人事権を持つ者が従事者になる場合、職務上知り得た未加工の回答データを人事評価等に利用しないことを規程に明記し、厳格な守秘義務を課す必要があります。アクセス権限を制限する運用ルールを定めることがプライバシー保護の観点から重要です。
Q8. ストレスチェックの結果や面接記録について、規程で定めるべき保存ルールは?
結果記録および医師による面接指導の結果記録は、法律により5年間の保存義務があります。規程には、保存場所(施錠できる保管庫や安全なサーバー等)と、管理責任者を明記し、第三者が安易に閲覧できない体制を定めておく必要があります。
Q9. 面接指導の手順を盛り込む際、不利益な取り扱いの防止についてはどう記載すべきですか?
面接指導の申し出を理由とした解雇、雇い止め、不当な配置転換などの不利益な取り扱いを一切禁じる旨を明記します。また、医師の意見に基づき就業上の措置を講じる際も、健康確保のために必要な範囲で行うことをプロセスとして定めておくべきです。
Q10. 外部委託先の変更や80項目版への移行を行う場合、規程のアップデートは必要ですか?
はい、定期的な見直しが必要です。実施体制や集団分析の実施有無など、制度の内容に変更が生じるたびに規程を更新しなければなりません。実際の運用と規程に相違がないか、衛生委員会で定期的に確認を行うことで形骸化を防ぐことができます。
Q11. 受検を拒否する従業員への対応について、規程にはどう定めておくのが適切ですか?
受検は労働者の自由意思によるため、強制できないこと、および受検しないことを理由とした不利益な取り扱いを行わないことを盛り込みます。その上で、個人情報の保護に配慮した形で再度の受検勧奨を行う手順を定めておくと、受検率の向上に繋がります。
Q12. 規程策定後、従業員への周知はどのような方法で行うのが法的な要件を満たしますか?
社内イントラネットへの掲載、書面配布、または見やすい場所への掲示など、従業員がいつでも内容を確認できる状態にすることが必要です。情報の秘匿性や不利益な取り扱いの禁止について丁寧に周知することで、受検に対する不安を解消できます。

ストレスチェック制度実施規程は、単なる事務的な書類ではありません。会社が従業員の心の健康を考え、プライバシーを保護し、適正な運用を行うことを宣言するものともいえます。ストレスチェック指針とストレスチェックマニュアルに沿った規程を作成し、適切に運用することで、従業員の信頼を得られ、受検率や改善への協力姿勢も向上します。結果として、働きやすい職場環境が実現し、生産性の向上という大きなメリットを享受できるのです。今一度、自社の実施規程が指針に合致しているか、そして形骸化していないかを定期的に確認してみることをお勧めします。