ストレスチェック制度の実施において、多くの企業・事業場が外部の専門機関に委託がされています。特に労働者数が数百名、数千名規模になるほど、自社内だけで全ての事務工程を完結させるのは容易ではありません。しかし、外部機関へ委託する際には、単に「コストが安いから」「システムが使いやすそうだから」といった理由だけで選定してしまうと、後に法令違反や個人情報の漏洩といった重大なリスクを招く恐れがあります。
厚生労働省は、事業者が外部機関へ委託する際に確認すべき事項を「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」として示しています。本記事では、このチェックリストに基づき、人事労務担当者や調達部門、産業保健スタッフが押さえておくべき実務上のポイントを詳しく解説します。
外部委託チェックリストで最適なサービスや委託先選定を。
ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」を主目的としています(出典:ストレスチェックマニュアルP4)。この制度には、厳格な守秘義務や個人情報の保護が求められており、事業者がこれらを軽視して運用することは許されません。
委託先選定の責任はあくまでも事業者にあります
ストレスチェック指針では、ストレスチェックを外部機関に委託する場合であっても、その委託先において適切に実施できる体制や情報管理が整備されているか事前に確認することが望ましいとされています(ストレスチェック指針P17)。万が一、委託先が不適切な情報の取り扱いを行った場合、その責任の一端は選定した事業者側にも及ぶ可能性があります。
ストレスチェックは丸投げはできない制度
ストレスチェック制度は、事業場の実態を熟知している産業医などの産業保健スタッフが中心的な役割を果たすことが法令上想定されています。外部機関に全てを任せきりにするのではなく、外部機関と事業場の産業医がいかに密接に連携できるかが、制度を形骸化させないための鍵となります。
チェックリストによる委託先選定の5つの重要ポイント
厚生労働省が示すチェックリストは「制度の理解」「実施体制」「調査票・評価方法」「実施後の対応」「面接指導」の領域に分かれています。ここでは特に実務上重要なポイントを深掘りします。
ストレスチェック外部委託選定時の重要ポイント
| 分類 | 確認すべき重要事項 | 出典・参照ページ |
|---|---|---|
| 1. 制度の主旨 | 制度の主目的は「一次予防(未然防止)」であること | ストレスチェックマニュアル P4 |
| 2. 委託先選定 | 事業者による委託先の体制・情報管理の事前確認 | ストレスチェック指針 P17 |
| 3. 実施体制 | 産業医と外部機関の密接な連携(共同実施) |
ストレスチェック指針 P15 ストレスチェックQ&A問6-1 |
| 4. 資格要件 | 実施者(医師・保健師等)の資格保有の確認 | ストレスチェックマニュアル P23 |
| 5. 守秘義務 | 人事権を持つ者の実施事務従事禁止 | ストレスチェック指針 P13 |
| 6. 調査内容 | 調査票における「3領域」の網羅と科学的根拠 | ストレスチェックマニュアル P33 |
| 7. ICT・システム | 情報保護・閲覧制限・実施者判断の「3要件」 | ストレスチェックマニュアル P39 |
| 8. 記録保存 | 実施記録の「5年間」の保存義務 | ストレスチェック指針 P8 |
| 9. 集団分析 | 10人未満の集計ユニットにおける提供制限 | ストレスチェック指針 P14 |
| 10. 同意取得 | 結果通知「後」に行う事業者への提供同意 | ストレスチェック指針 P13 |
| 11. 総括確認 | 厚生労働省が示す「チェックリスト例」の活用 | ストレスチェックマニュアル P120-122 |
ポイント1:ストレスチェック制度の本質と守秘義務の理解
チェックリストの冒頭では、委託先が「ストレスチェックの目的が主に一次予防にあること」や「労働安全衛生法第105条に基づく守秘義務が課されること」を理解しているかが問われています。 特にストレスチェックサービスや委託先を選定にあたる人事労務部門や調達部門が注意すべきは、委託先の営業担当者だけでなく、実際にデータに触れるシステム担当者や事務従事者に対しても研修が行われ、個人情報保護の重要性が周知されているかという点です。また、本人の同意なくストレスチェック結果を事業者に提供することが禁止されているという大原則を、委託先がシステム仕様として実装しているかを確認しなければなりません。
ポイント2:実施者と実施事務従事者の確保
ストレスチェックを実施するには、医師、保健師、または一定の研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師といった「ストレスチェック実施者」の選定が必要です(出典:ストレスチェックマニュアルP23)。
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ストレスチェックの実施者(資格保有者)
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面接指導を行う医師(産業医資格を有することが望ましい)
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実施事務従事者(実施者の指示を受けて補助業務を行う者)
また、委託先内で実施事務従事者を担う担当者へどのような教育をされているかの事前確認も必要です。人事権を持つ者が実施事務従事者として情報に触れることは法令で禁止されているため、委託先がその制限を理解して自社の関係者と連携できるか業者選定の際に事前確認するとな尚良いでしょう。例えば、ストレスチェック外部委託先の選定段階では実務担当者として会議等に出席していた人事権者の役職者に対して、ストレスチェック開始後、委託先から誤って同意を得ていない従業員個人のストレスチェック情報を伝達してしまうといったことがあります。
ポイント3:ストレスチェックマニュアルや科学的根拠に基づいた調査票と評価方法
使用する調査票が、法令で定められた「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3領域を網羅しているかは必須条件です(ストレスチェックマニュアルP33)。多くのベンダーが独自の設問を追加した調査票を提案しますが、国が示す標準的な「57項目」や「23項目」以外の調査票を用いる場合は、その科学的な根拠が示されているかを必ず確認しましょう。また、高ストレス者の選定基準が、実施者の意見や衛生委員会での調査審議を経て決定できるようなカスタマイズ性を備えているかも重要な確認事項です。
ポイント4:セキュリティと5年間の記録保存
ストレスチェックの結果は、5年間の保存義務があります(ストレスチェック指針P8)。委託先を変更した場合にデータの引き継ぎがスムーズに行えるか、あるいは委託先が倒産・廃業した場合のデータ返還はどうなるのかといった点は、契約書に盛り込むべき事項です。
また、ICT(インターネット等)を用いて実施する場合、以下の3要件を満たしているかチェックリストで確認します。
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個人情報の保護や改ざん防止の仕組み(セキュリティ)が整っている。
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本人以外の閲覧制限がなされている。
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実施者の役割(評価・判断)が適切に果たされる仕組みである。
ポイント5:集団分析の単位と個人特定防止の方法
職場環境改善に欠かせない集団ごとのストレスチェック集団分析ですが、回答者が10人未満の集団については、原則として全員の同意がない限り結果を事業者に提供してはなりません(出典:ストレスチェック指針P14)。委託先のシステムが、10人未満の部署を自動的に上位組織と合算するなど、個人の特定を避ける機能を備えているかを確認してください。安易に少人数グループの分析結果を表示させてしまうツールは、法令遵守の観点から非常に危険です。
ストレスチェック外部機関チェックリスト(Excel版)

厚生労働省「外部機関にストレスチェック及び面接指導の実施を委託する場合のチェックリスト例」 を元に確認すべき事項やポイントを一覧化したチェックシートをご提供しています。Excel Sheet内の注意事項をご確認のうえ、ストレスチェック外部委託先選定の際のツールとしてご使用ください。
産業医との連携
チェックリストには「外部機関と当該事業場の産業医等が密接に連携することが望ましいことを理解しているか」という項目があります(出典:ストレスチェックマニュアルP117)。外部委託をする際、最も多い失敗が、自社の産業医との連携不足による、ストレスチェック制度の実施自体の形骸化や有効活用できずに終わってしまうもったいない状況に至ることです。
共同実施者としての産業医
外部機関に委託する場合であっても、事業場の産業医を共同実施者として位置づけることが強く推奨されます(ストレスチェック指針P15)。産業医が共同実施者でない場合、産業医といえど個人のストレスチェック結果を把握するためには、労働者一人ひとりから個別に同意を得るという非常に煩雑な手続きが必要になります。共同実施者であれば、産業医は外部機関から個人のデータを受け取り、高ストレス者への面接指導の要否を自ら判断したり、緊急性の高い労働者へ早期に介入したりすることが可能になります(ストレスチェックQ&A問6-1)。
産業医の関与は職場のメンタルヘルス対策を推進する上で不可欠です
産業医は、企業(事業場)において労働者が健康かつ安全に働けるよう、医学的な知見に基づき専門的な助言や指導を行う医師のことを指します。また産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項に規定されており、その中で、「健康診断及び面接指導等(法第66条の8第1項に規定する面接指導及び法第66条の9に規定する必要な措置をいう)の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。」との定めがあります。つまりストレスチェック制度における高ストレス者への医師面談は産業医の職務であり、基本的に依頼があれば断れない業務だといえます。従業員の心身に関する状態や職場環境を熟知する産業医のストレスチェックへの積極的な関与は、職場のメンタルヘルス対策や健康経営を推進するほか、従業員のパフォーマンスを向上させる活動のベースとなることを重視しましょう。
委託先と産業保健スタッフの連携体制
「実施者やその他の実施事務従事者が、必要に応じて委託元の産業保健スタッフと綿密に連絡調整を行う体制が取られているか」という項目も重要です(出典:ストレスチェックマニュアルP117)。 高ストレス者が発生した際や、緊急の相談があった際、外部機関の担当者から事業場の産業医や看護職へ、どのようなフローで情報が伝達されるのか。この動線が曖昧だと、せっかくの一次予防が機能しません。
調達部門・人事担当者が契約前に必ず行うべきこと
外部機関の選定にあたっては、プレゼンテーションの内容や価格だけでなく、以下の書類の提出を求めることが有効です。
| 確認すべき項目 | 具体的なチェックポイントと指針の要点 |
|---|---|
| 1. 実施体制図と資格証明書 | 実施者となる医師や保健師等の資格、および担当範囲が明記されているか。 |
| 2. 情報セキュリティ基本方針(ISMS等) | データの保管場所、アクセス権限の管理、バックアップ体制が万全か。 |
| 3. システムデモによる「同意取得フロー」の確認 | 「結果通知後に個別に同意を取得する」という正しい手順になっているか(出典:ストレスチェック指針P13)。事前同意や一括同意を求める仕様は不適切です。 |
| 4. 面接指導の実施マニュアル | 外部の医師に面接を依頼する場合、事業場の勤務状況(残業時間や作業態様)をどのように情報共有し、医師がそれを加味して判断する仕組みになっているか(出典:ストレスチェックマニュアルP69)。 |
参考リンク:厚生労働省「ストレスチェック制度」について
委託先の品質や対応レベルを図る質問例
- 「この項目はどう対応されていますか?」という委託先候補先から提供された資料にない質問や、ストレスチェック指針・ストレスチェックマニュアルに記載された内容に関する問いに対して明確な回答と根拠を示せるか。
- こちらからの連絡や質問において、相当日数待たされることはないか。
ストレスチェック外部委託に関するよくある質問
ストレスチェックの外部委託は、専門機関への委託による法令遵守と有効活用の可能性、事務負担の軽減というメリットがある一方で、一歩間違えれば従業員の信頼を損なったり、個人結果漏えいといったリスクを孕んでいます。厚生労働省が示すチェックリスト(出典:ストレスチェックマニュアルP120-122)を単なる形式的な確認に留めず、委託先との対話のツールとして活用してください。
