働き方の多様化やテレワークの普及に伴い、産業保健の現場でも「オンラインでの面接指導」へのニーズが急速に高まっています。しかし、画面越しでは対面と同じような「きめ細やかな心身の状況把握」ができるのか、法的なルールはどうなっているのか、不安を感じている人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
労働安全衛生法に基づく医師による面接指導は、本来、対面で行うことが原則です。しかし、令和2年の通知により、一定の要件を満たすことで情報通信機器(ICT)を用いた実施が可能となりました 。この記事では、厚生労働省の通達(基発1119第2号)に基づき、オンライン面接指導を適正に導入・運用するために企業が守るべき要件を分かりやすく解説します。
1. 面接指導の本来の目的とオンラインのニーズ
面接指導の本来の目的
労働安全衛生法第66条の8第1項などに基づき、事業者は長時間労働者やストレスチェック後の高ストレス者に対し、医師による面接指導を実施する義務があります 。この面接指導の目的は、単なる体調確認ではありません。医師が労働者とやりとりをする中で、表情、しぐさ、話し方、声色といった「非言語情報」から疲労やストレスの状況を把握し、必要な指導や就業上の措置(仕事の軽減など)を判断することにあります 。
デジタル技術の進展とニーズの拡大
近年、デジタル技術の進展により、高品質な映像と音声のやりとりが可能になりました。これにより、対面に準ずる形で労働者の様子を確認できる環境が整ったため、効率的かつ柔軟な健康管理の手法としてICTの活用が認められるようになりました 。
2. オンライン面接指導を実施するための「3つの基本要件」
情報通信機器を用いて面接指導を行う場合、厚生労働省は「労働者の心身の状況が適切に確認されること」を大前提としています。具体的には、以下の3つのカテゴリーで要件が定められています。
① 医師に関する要件(望ましい体制)
オンライン面接を行う医師は、その事業場の状況をよく知っていることが望ましいとされています。具体的には、以下のいずれかに該当することが推奨されます 。これらは、医師が職場の作業環境や業務内容を具体的にイメージできていなければ、適切な判断が難しいためです 。
- 当該事業場の産業医であること
- 過去1年以上、当該事業場の日常的な健康管理業務を担当していること
- 過去1年以内に、当該事業場を巡視したことがあること
- 過去1年以内に、当該労働者に対して指導等を実施したことがあること
② 使用する機器(ハードウェア)の要件
使用するシステムやデバイスは、以下のすべてを満たす必要があります 。
| 要件項目 | 具体的な内容・必須事項 |
|---|---|
| 相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できること | 映像と音声が常時安定しており、円滑にやりとりできることが必須です。 |
| 情報セキュリティの確保 | 外部への情報漏洩や不正アクセスを防止する対策が講じられている必要があります。 |
| 操作の容易性 | 労働者が複雑な操作に戸惑うことなく、簡単に利用できるものである必要があります。 |
③ 実施方法(ソフトウェア)の要件
運用のルール作りについても、以下の手順が求められます 。
- 衛生委員会での調査審議:事前にオンライン面接の実施方法について衛生委員会等で話し合い、労働者に周知しておく必要があります 。
- プライバシーの保護:面接の内容が第三者に漏れないよう、個室の確保など静穏な環境を整備しなければなりません 。
3. 事業者が医師に提供すべき「情報の具体例」
オンラインでは医師が直接職場を見る機会が限られるため、事業者は事前に十分な情報を提供しなければなりません 。
提供すべき主な情報は以下の通りです。これらの情報があることで、医師は画面越しであっても、労働者の負担度合いを客観的に評価することが可能になります。
- 事業場に関する情報:事業の概要、業務の内容、作業環境など 。
- 労働者本人に関する情報:現在の業務内容、労働時間等の勤務状況、作業環境など 。
4. 緊急時の対応体制を忘れずに
オンライン面接指導中に、医師が「この労働者は自傷他害の恐れがある」「急を要する体調不良がある」と判断する場合も想定されます。そのため、以下の緊急時対応体制を整えておくことが義務付けられています 。「画面を切って終わり」にしないためのセーフティネットが不可欠です。
- 近隣医師との連携:労働者がいる場所の近くにある医療機関と連携できる体制 。
- 産業保健スタッフの活用:事業場にいる看護師や衛生管理者等がすぐに駆けつけられる体制
オンライン産業医面談に関するよくある質問
オンライン面接指導は、適切に運用すれば、遠隔地の従業員や多忙な管理職でもスムーズに医師のサポートを受けられる素晴らしい仕組みです。
安易に始めるのではなく、まずは自社の衛生委員会でこれらの要件をチェックすることから始めてみてはいかがでしょうか。

