受動喫煙防止ガイドラインの基本と事業者が取り組むべき実務対応

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構

職場における受動喫煙対策は、いまや単なるマナーではなく、法律に基づく事業者の義務です。2019年に策定された「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」は、改正健康増進法と労働安全衛生法の両面から、私たちが取り組むべき具体的な指針を示しています 。

「どこまで対策をすればいいのか?」「喫煙室の基準は?」といった現場の悩みに対し、本記事ではガイドラインの要点を分かりやすく解説します。この記事を読むことで、法定義務の遵守だけでなく、従業員の健康と働きやすさを両立させるための具体的なステップをご紹介します。

参考リンク:

厚生労働省:受動喫煙対策(最新情報・問合せ先)

なくそう!望まない受動喫煙(特設サイト)

1. 職場における受動喫煙防止対策の背景と目的

職場での受動喫煙防止が強く求められるようになった背景には、2つの大きな法律が関係しています 。本ガイドラインは、これら2つの法律で求められる事項を一体的に示し、事業者が迷わずに対策を進められるように作成されました 。事業者は、施設の管理権原者と連携し、労働者が安心して働ける環境を整備する必要があります 。

  • 健康増進法(改正法): 多数の者が利用する施設において、望まない受動喫煙を防止するための「措置義務」を課しています 。
  • 労働安全衛生法(第68条の2): 職場における労働者の安全と健康の保護を目的とし、事業者に受動喫煙防止のための「努力義務」を課しています 。
受動喫煙防止ガイドラインの総合的な解説画像
受動喫煙防止ガイドラインとは(クリックで拡大)

2. まずは自社がどの「施設」に該当するかを確認

ガイドラインでは、施設の種類によってルールが異なります。自社がどの区分に該当するかを正しく把握しましょう 。

第一種施設(原則敷地内禁煙)

学校、病院、児童福祉施設、行政機関の庁舎などが該当します 。これらは受動喫煙による健康被害を受けやすい人が利用するため、最も厳しい基準が設けられています 。

第二種施設(原則屋内禁煙)

一般の事務所、工場、飲食店などがこれに当たります 。屋内の場所は原則禁煙ですが、基準を満たした「喫煙専用室」などを設置することは可能です 。

喫煙目的施設

公衆喫煙所や、喫煙を主目的とするバー、スナック、たばこ販売店などが該当します 。

3. 組織的な対策の進め方:5つのステップ

受動喫煙防止は、単に灰皿を撤去するだけでは不十分です。組織として計画的に進めることが重要です 。

推進ステップ 具体的な実施内容
① 推進計画の策定 事業場の実情を把握し、中長期的な目標を定めた「推進計画」を策定します。衛生委員会等で十分に検討し、労働者の意見を反映させることが望ましいとされています。
② 担当部署・担当者の指定 受動喫煙防止対策を司る部署や担当者を決め、相談対応や状況の把握、分析、評価を行わせます。
③ 産業医との連携 産業医の職場巡視の際、受動喫煙防止対策が正しく実施されているか、実施状況を確認してもらうようにしましょう。
④ 標識の設置 喫煙ができる場所を設ける場合は、その出入口と施設の主たる出入口に、必ず指定の標識を掲示しなければなりません。
⑤ 労働者への周知・教育 受動喫煙の健康影響や、会社が講じた措置の内容について教育を行い、組織全体の意識を高めます。

4. 喫煙専用室などを設置する場合の「技術的基準」

屋内に喫煙場所を設ける場合、たばこの煙が流出しないよう、以下の厳しい技術的基準を満たす必要があります 。

  • 気流の確保: 出入口において、室外から室内に流入する空気の気流が 0.2m/s以上 であること 。
  • 壁等による区画: たばこの煙が漏れないよう、壁や天井でしっかり仕切られていること 。
  • 屋外への排気: 煙が直接屋外(または外部の場所)に排出されていること 。

※喫煙専用室内での飲食等は禁止されています 。一方で、加熱式たばこ専用の「指定たばこ専用喫煙室」であれば、室内での飲食が認められています 。

5. 特に配慮が必要な労働者への対策

すべての労働者を守るため、特に以下の点に留意が必要です 。

  • 20歳未満の立ち入り厳禁: 20歳未満の労働者は、業務内容(掃除など)に関わらず、喫煙エリアに立ち入らせることは法律で禁止されています 。
  • 配慮が必要な労働者: 妊婦、呼吸器・循環器疾患のある労働者、化学物質過敏症の労働者などに対しては、受動喫煙を完全に防止するための特別な配慮が求められます 。
  • 求人時の明示:
    労働者を募集する際は、就業場所における受動喫煙防止措置(例:完全禁煙、喫煙専用室あり等)を明示する必要があります 。

6. 受動喫煙防止に関するよくある質問

Q1. 改正健康増進法により、オフィスや工場における受動喫煙防止対策はどう義務付けられていますか?
2020年4月の全面施行により、多くの人が利用する施設(事務所、工場、飲食店等)は原則屋内禁煙となりました。屋内で喫煙を認める場合には、法律で定められた基準を満たす喫煙専用室等の設置が義務付けられています。これに違反し、是正勧告に従わない場合は、施設管理者に対して最大50万円の過料が科せられる可能性があります。
Q2. 屋内に設置する喫煙専用室には、どのような技術的基準を満たす必要がありますか?
以下の3つの技術的基準をすべて満たす必要があります。
(1) 出入口において、室外から室内へ流入する空気の気流が0.2m/s以上であること。
(2) たばこの煙が室内から室外に流出しないよう、壁、天井等によって区画されていること。
(3) たばこの煙が屋外または外部に直接排出されていること。
これらの基準を満たさない設備は、法律上の喫煙室として認められません。
Q3. 喫煙室を設置した場合、どのような標識を掲示する義務がありますか?
施設の入り口と、喫煙室の出入り口の2箇所に、法律で定められた標識を掲示しなければなりません。施設の入り口には喫煙専用室あり等の内容、喫煙室の扉には喫煙専用室であることと20歳未満立ち入り禁止であることを示す標識が必要です。紛らわしい独自の標識ではなく、公的なデザインを使用することが推奨されます。
Q4. 加熱式たばこであれば、通常のオフィスデスクや会議室で吸っても問題ありませんか?
法律上、加熱式たばこも喫煙に含まれるため、通常の執務エリアや会議室での使用は禁止されています。ただし、加熱式たばこに限定して飲食等をしながらの喫煙を認める加熱式たばこ専用喫煙室を設置することは可能です。通常の紙巻きたばこが吸える喫煙専用室では飲食が一切禁止されている点に注意が必要です。
Q5. 20歳未満の従業員がいる場合、喫煙室への立ち入りについてどのような制限がありますか?
20歳未満の方は、たとえ喫煙が目的でなくても、喫煙エリアへの立ち入りが一切禁止されています。これは従業員だけでなく、清掃業者やメンテナンス担当者、来客も同様です。20歳未満の従業員に喫煙室の清掃を命じることは法律違反となりますので、業務割当の際には細心の注意を払ってください。
Q6. 屋外に喫煙所を設置する場合、法律上の制限や配慮として何を行うべきですか?
屋外については法的な設置基準はありませんが、受動喫煙を生じさせないよう配慮する義務があります。建物の出入り口や窓の近くを避け、人通りが少ない場所に設置する、パーテーションで区切るなどの配慮が必要です。配慮を怠り、近隣や通行人から苦情が出た場合、行政指導の対象となる可能性があります。
Q7. 小規模な飲食店などにある経過措置(既存特定飲食提供施設)とは何ですか?
2020年4月1日時点で営業しており、資本金5000万円以下かつ客席面積100平方メートル以下の飲食店に限り、届け出を行うことで喫煙可能店(席での喫煙可)とすることが認められています。ただし、この場合も20歳未満の立ち入りは厳禁であり、店頭への標識掲示が必須となります。オフィスビル内のテナントなどでは、ビル全体のルールも確認が必要です。
Q8. 従業員から受動喫煙で体調を崩したと訴えられた場合、どのような責任を問われますか?
健康増進法の遵守だけでなく、労働安全衛生法に基づく安全配慮義務を問われる可能性があります。会社が適切な分煙対策を講じていなかったために健康被害が生じたと判断されれば、損害賠償請求の対象となります。特に、望まない受動喫煙を強いるような環境放置は、法的にも経営的にも大きなリスクとなります。
Q9. 勤務時間中の喫煙禁止や、採用条件を非喫煙者とすることは可能ですか?
勤務時間中の禁煙については、職務専念義務の一環として合理的な範囲内であれば制限可能です。また、健康経営の観点から非喫煙者であることを採用の条件とすることも、業務上の必要性や公序良俗に反しない範囲であれば可能とされています。ただし、既存の従業員に対して無理な禁煙を強要することはハラスメントに繋がる恐れがあるため、段階的な周知と支援が重要です。
Q10. 会社として敷地内完全禁煙を導入する際、トラブルを避けるためにどのようなステップを踏むべきですか?
いきなり禁止するのではなく、以下のステップを推奨します。1.衛生委員会での調査審議と方針決定、2.実施数ヶ月前からの社内周知、3.卒煙を希望する従業員へのサポート(費用補助等)、4.近隣での路上喫煙が起きないようマナー教育の徹底。従業員の健康を守るというポジティブなメッセージとして発信することが大切です。

「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」は、単なるルール遵守を超えて、従業員の健康を守り、企業の社会的信頼を高めるためのロードマップです。

  1. 自社が「第一種」か「第二種」かを確認する。
  2. 衛生委員会で現状の課題(煙の漏れはないか、20歳未満が立ち入っていないか等)を話し合う。
  3. 喫煙室がある場合は、風速計等で「0.2m/s」の基準を満たしているか測定する 。

対策にはコストがかかる場合もありますが、都道府県労働局等で 助成金 の相談も受け付けています 。積極的に活用し、クリーンな職場環境を目指しましょう。