ストレスチェック制度の実施にあたり、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)って何を測っているの?」「評価結果をどう読み解いて職場改善に活かせばよいのか?」と疑問をお持ちの人事労務担当者や産業保健スタッフの方は多いのではないでしょうか。当解説記事では、厚生労働省が推奨するこの調査票の開発経緯・57項目の構成・3つの評価方法・4つのケアへの活用場面まで、厚生労働省および東京医科大学が作成した「職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル」をもとにわかりやすく解説します。
職業性ストレス簡易調査票とは
職業性ストレス簡易調査票は、職場で比較的簡便に使用できる自己記入式のストレス調査票です。労働者個人のストレス状態を把握するだけでなく、職場・部署・作業グループなど集団のストレス状況を評価するためにも用いることができ、職場のメンタルヘルス対策の幅広い場面で活用されています。
開発の経緯と背景
職業性ストレス簡易調査票は、平成7年〜11年度の旧労働省委託研究「作業関連疾患の予防に関する研究」のストレス測定グループによる研究の成果として開発されました。主任研究者は東京医科大学衛生学公衆衛生学の下光輝一氏らが務め、約2.5万人(男性15,933人・女性8,447人)の多業種・多職種の労働者データをもとに標準値が設定されています。
その後、2015年(平成27年)12月に施行されたストレスチェック制度において、厚生労働省がこの57項目版を「推奨する調査票」として採用したことで、全国の事業場に広く普及しました。現在もストレスチェックの標準的な調査票として最も多くの事業場で使用されています。
職業性ストレス簡易調査票の5つの特徴
職業性ストレス簡易調査票マニュアルでは、従来の標準化された調査票と異なるこの調査票の特徴として以下の5点が挙げられています。
- ストレスの反応だけでなく、仕事上のストレス要因・ストレス反応・修飾要因を同時に測定できる多軸的な調査票であること
- 心理的反応のみならず身体的反応(身体愁訴)も測定できること
- ネガティブな反応だけでなくポジティブな反応(活気)も評価できること
- あらゆる業種の職場で使用できること
- 項目数が57項目と少なく約10分で回答できるため労働の現場で簡便に使用できること
職業性ストレス簡易調査票の構成:3つの領域と57項目の内容
職業性ストレス簡易調査票は、仕事のストレス要因・ストレス反応・修飾要因の大きく3つの領域と、満足度の計4領域57項目で構成されています。各項目の回答は4件法(1=そうだ、2=まあそうだ、3=ややちがう、4=ちがう)で、全項目の回答に要する時間は約10分です。
領域A:仕事のストレス要因(17項目)
仕事上のストレス要因に関する尺度は9つあり、合計17項目で構成されています。これらは仕事の量・質・環境・人間関係・適性など多角的な観点から仕事上のストレス要因を把握するものです。
領域B:ストレス反応(29項目)
ストレス反応については、心理的ストレス反応(18項目)と身体的ストレス反応(11項目)の合計29項目で測定します。
- 心理的ストレス反応は5つの尺度からなります。ポジティブな反応として「活気」(B1〜3:活気・元気・生き生き感)、ネガティブな反応として「イライラ感」(B4〜6)、「疲労感」(B7〜9)、「不安感」(B10〜12)、「抑うつ感」(B13〜18)の5尺度です。
- 身体的ストレス反応は「身体愁訴」としてB19〜29の11項目(めまい・体のふしぶしの痛み・頭重・肩こり・腰痛・目の疲れ・動悸や息切れ・胃腸不調・食欲不振・便秘や下痢・不眠)で測定されます。
マニュアルでは6つのストレス反応の尺度のうち、「活気の低下」は比較的低いストレスレベルでも認められ、次に「身体愁訴」「イライラ感」「疲労感」、続いて「不安感」が続き、「抑うつ感」が最も高いストレスレベルでみられる症状であることが示されています。より深刻なストレス問題を観察する際には「抑うつ感」に着目することが重要です。
領域C:修飾要因(9項目)
修飾要因は、ストレス反応に影響を与える「周囲からのサポート」に関する9項目です。上司・同僚・配偶者や家族・友人それぞれからのサポートを「気軽に話せるか」「頼りになるか」「相談に乗ってくれるか」の3観点から測定します。
周囲からのサポートはストレスを緩和する重要な要因であり、この領域の得点を把握することで、職場の人間関係の健全性や孤立している労働者の早期発見に役立てることができます。
領域D:満足度(2項目)
「仕事に満足だ」「家庭生活に満足だ」の2項目からなる満足度の領域です。ストレスチェックの高ストレス者判定の計算には含まれませんが、産業医等の実施者が労働者のストレス状況をより深く理解するための参考情報として位置づけられています。
ストレスチェック制度における位置づけ
2015年(平成27年)12月施行のストレスチェック制度では、調査票に含めるべき3領域として「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」が法令上定められています。職業性ストレス簡易調査票(57項目)はこれらの3領域をすべて含み、厚生労働省が「推奨する調査票」として明示しており、全国の多くの事業場で採用されています。
ストレスチェックの調査票は、3領域を満たせば事業場独自のものを使用することも認められていますが、57項目版は採用実績が豊富で全国標準値との比較が容易なことから、特に初めてストレスチェックを導入する事業場や、同業他社との比較を行いたい事業場に適しています。
なお、厚生労働省版ストレスチェック実施プログラムも無料で提供されており、このプログラムを利用することで集計・評価作業を効率化することができます。
職業性ストレス簡易調査票における2つのストレス評価方法と集団分析
職業性ストレス簡易調査票の評価・判定には主に3つの方法があり、個人レベルの評価に適したものと、集団レベルの評価に特化したものがあります。それぞれの目的と活用場面を理解して使い分けることが大切です。
簡易判定法(単純加算方式)と標準化得点法(素点換算方式)
| 2つの評価方法 | 目的・特徴・具体的な評価基準と活用法 |
|---|---|
| 簡易判定法 |
【目的・特徴】 個人レベルのストレスを簡便に評価。コンピュータ等の機器を使わずに短時間で評価可能なため、健康診断や健康相談時の産業医・保健師による面談補助資料に適しています。 【評価手順・基準】 回答を「好ましくない2段階(そうだ・まあそうだ)」と「好ましい2段階(ややちがう・ちがう)」に分割。好ましくない回答が指定数以上でストレス状態を疑う。 ●特に注意が必要なケース: ①仕事のストレス要因(A)に3つ以上要チェックがある。 ②「仕事の負担度」「仕事のコントロール度」「職場の支援」の3つが要チェック(心理的ストレス反応の確率は男性18.5倍、女性12.5倍に上昇)。 |
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標準化得点を用いた評価法 (素点換算) |
【目的・特徴】 全57項目を使用。約2.5万人の標準集団データベースをもとに5段階で換算評価。個人のストレスプロフィールを視覚化し、自らの気づきを促すのに有効です。 【具体的な活用】 厚労省提供の専用プログラムを利用し、レーダーチャートおよび表形式で出力。
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集団分析:仕事のストレス判定図
仕事のストレス判定図は、事業場全体・部や課・作業グループなど集団を対象として職場のストレス状況を評価し、健康リスクを判定する方法です。個人ではなく職場単位の問題を把握して職場環境改善につなげることを目的としており、集団分析の中核的なツールとして活用されています。判定図は2つの図から構成されています。「量—コントロール判定図」は仕事の量的負担と仕事のコントロールをストレス要因として健康リスクをプロットするもの、「職場の支援判定図」は同僚の支援と上司の支援から健康リスクを算出するものです。
判定図上の斜めの線は、仕事のストレス要因から予想される疾病休業などの健康問題のリスクを、標準集団の平均を100として表しています。例えばある部署の健康リスクが120の場合は、その部署において健康問題が起きるリスクが全国一般と比較して20%大きいと判断されます。2つの図のリスクを掛け合わせたものが「総合した健康リスク」として算出されます。
| 判定図の種類 | 測定する要因 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 量-コントロール判定図 | 仕事の量的負担・コントロール | 仕事量と自由度のバランスによる健康リスク |
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職場の支援判定図 |
上司の支援・同僚の支援 | 職場サポート体制による健康リスク |
なお、判定図を作成する集団は、できれば20人以上、少なくとも10人以上を目安とするよう示されています。人数が少ない場合は個人差の影響が大きくなり正確な評価ができないこと、また個人が特定されてしまう可能性があることへの配慮が必要です。
4つのケアにおける活用場面
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が示す4つのケアのそれぞれにおいて、職業性ストレス簡易調査票は有用なツールとして活用できます。
| ケアの種類 / 活用場面 | 具体的な活用方法・実務のポイント・改善事例 |
|---|---|
| セルフケアでの活用 |
労働者本人が結果を確認し、自分自身のストレスへの気づきの資料として活用します。
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| ラインによるケアでの活用 |
管理監督者が部署の状況を把握し、職場環境改善に繋げます。
|
| 事業場内産業保健スタッフ等による活用 |
早期発見と専門的な対応のハブとなります。
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| 事業場外資源による活用 | EAP(従業員支援プログラム)機関や外部専門機関が相談対応や支援の中で使用。個人へのアプローチにおいて、対象者の特定や面談の質の向上に役立てます。 |
項目数別バリエーション:23・57・80・120項目の違い
| バリエーション | 特徴・用途 |
|---|---|
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23項目版簡略版 (職業性ストレス簡易調査票) |
57項目版から一部項目を省略。所要時間約5分。ストレスチェックの努力義務事業場が最初の導入で取り入れやすい。職場環境に関する一部項目が省かれており情報量は少ない |
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57項目版 (職業性ストレス簡易調査票) |
厚生労働省推奨の標準調査票。所要時間約10分。個人・集団どちらの評価にも対応。統計データが豊富で他社比較も可能 |
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80項目版 (新職業性ストレス簡易調査票) |
57項目版に新しい尺度(仕事の資源・個人の資源等)を追加。ワーク・エンゲイジメント等の測定が可能 |
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120項目版 (新職業性ストレス簡易調査票) |
57項目版に新版推奨尺度セット標準版63項目を追加。より精度の高い評価が可能だが、法定ストレスチェックでの採用は少ない |
職業性ストレス簡易調査票に関するよくある質問
職業性ストレス簡易調査票を職場のメンタルヘルス対策に活かすために
職業性ストレス簡易調査票は、ストレスチェック制度の実施に必要な情報を集めるための単なる記録手段ではありません。個人のストレスへの気づきを促し、職場のストレス要因を可視化して、管理監督者・産業保健スタッフ・経営層が一体となって職場環境改善に取り組むための情報基盤として機能します。当解説記事でご紹介したとおり、この調査票には3種類の評価方法(簡易判定法・標準化得点・仕事のストレス判定図)があり、それぞれ個人レベル・集団レベルの分析に使い分けることができます。特に仕事のストレス判定図を使った集団分析は、どの部署でどのようなストレス要因が健康リスクを高めているかを客観的に把握する強力なツールです。
マニュアルに収録されている複数の活用事例が示すように、調査票の結果をフィードバックし、管理監督者と産業保健スタッフが連携して具体的な改善策を検討・実施するサイクルを繰り返すことで、職場全体のストレスリスクを着実に低減することができます。ストレスチェックを「実施して終わり」にしないために、調査票の特性と評価方法を十分に理解し、職場のメンタルヘルス対策にしっかりと活かしていただければと思います。

