健康増進法という法律の名前は知っていても、具体的に何を定めた法律なのか、企業としてどのような対応が求められるのかを正確に把握できていないという人事労務担当者や産業保健スタッフの方は少なくないのではないでしょうか。当解説記事では、健康増進法の制定目的・構成・健康日本21(第三次)との関係・国民健康・栄養調査・受動喫煙防止規定(2018年改正・2020年全面施行)・罰則まで、厚生労働省の情報をもとにわかりやすく整理します。
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健康増進法とは
健康増進法とは、平成14年(2002年)8月2日に公布・翌平成15年(2003年)5月1日に施行された、国民の健康増進を総合的に推進するための基本法です。法律の正式名称は「健康増進法(平成14年法律第103号)」で、厚生労働省が所管しています。
健康増進法制定の背景と目的
健康増進法が制定された背景には、21世紀に入って急速に進む少子高齢化・生活習慣病の増加・医療費の増大という社会課題があります。従来の「病気になってから治療する」という医療中心の考え方から、「健康な状態を維持・増進し、病気を未然に防ぐ」という予防重視の方向への政策転換が求められるようになりました。
健康増進法第1条は、目的を以下のとおり定めています。
「この法律は、我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化に伴い、国民の健康の増進の重要性が著しく増大していることにかんがみ、国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定めるとともに、国民の栄養の改善その他の国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ることを目的とする。」
すなわち健康増進法の核心にあるのは「一次予防(健康増進・疾病の未然防止)の推進」であり、個人の健康づくりを支援するための国・地方公共団体・企業・国民それぞれの役割と責務を明示した法律です。
健康増進法と栄養改善法との関係
健康増進法の施行と同時に廃止されたのが、昭和27年(1952年)に制定された「栄養改善法」です。栄養改善法は戦後の食糧難を背景に栄養不足の改善を主目的として制定されましたが、時代とともに栄養過剰・生活習慣病の増加という逆の問題が生じるようになったことから、より包括的な「健康増進」を目的とした健康増進法に衣替えされた経緯があります。栄養改善法の主要な規定(国民健康・栄養調査・特定給食施設等)は、健康増進法に引き継がれています。
健康増進法の構成
最新の健康増進法は、罰則規定を含む全9章・76条から構成されています。主な章立ては、総則(目的・定義・責務)、基本方針・計画等、国民健康・栄養調査等、保健指導等、特定給食施設等、受動喫煙の防止等、雑則・罰則です。
国・都道府県・市町村・国民の責務
健康増進法は、健康増進に関わる各主体の責務を以下のように定めています。
国は「健康増進に関する調査及び研究を推進するとともに、国民の健康増進に関する施策の策定・推進」を行う責務を負います(第3条)。都道府県は「都道府県健康増進計画を策定し、国との連携のもと地域住民の健康増進を推進する責務」を負います(第4条)。市町村は「市町村健康増進計画を策定し、地域住民の健康増進に関する施策を推進する責務」を負います(第4条)。国民は「健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない」とされています(第2条)。
健康増進法の主な規定事項
健康増進法が定める主な事項は以下のとおりです。
| 健康増進法の規定事項 | 概要 |
|---|---|
| 基本方針(第7条) | 厚生労働大臣が「国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」を定めること |
| 国民健康・栄養調査(第10~16条) | 国民の健康・栄養状態を把握するための調査の実施 |
| 保健指導等(第17~19条の3) | 市町村・都道府県・国保連合会等による健康増進事業の実施 |
| 特定給食施設(第20~24条) | 継続的に多数の者に食事を提供する施設に対する栄養管理基準 |
| 受動喫煙の防止(第25~42条) | 多くの人が利用する施設における禁煙・喫煙室の規則 |
健康日本21(第三次)との関係
健康増進法の最も重要な機能のひとつが、国民健康づくり運動「健康日本21」の法的根拠を提供していることです。
健康日本21とは
健康日本21とは、厚生労働省が推進する国民健康づくり運動の通称で、健康増進法第7条に基づく「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」として厚生労働大臣が告示するものです。2000年(平成12年)に開始された当初の「健康日本21」(第一次国民健康づくり運動)以降、第二次(2013〜2023年度)・第三次(2024年度〜)と継続的に改定・推進されています。
第三次(2024年度〜)の基本方針と目標
令和6年(2024年)4月1日から「21世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21(第三次))」が開始されました。第三次の基本コンセプトは「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」であり、「誰一人取り残さない健康づくり」と「より実効性をもつ取組の推進」が新たな視点として加わっています。
第三次の目標体系は以下の5つの柱で構成されています。健康寿命の延伸・健康格差の縮小(最終目標)、生活習慣病(NCDs)の発症予防・重症化予防、生活習慣の改善(栄養・食生活、身体活動・運動、休養・睡眠、飲酒、喫煙、歯・口腔の健康)、生活機能の維持・向上、社会環境の質の向上です。第三次では、個人の行動変容を促すだけでなく、個人を取り巻く「社会環境の整備」によって健康に関心が薄い人も含めた健康づくりを推進する方向性が明確に示されていることが特徴です。
評価については計画開始後6年(令和11年)を目途に中間評価、計画開始後10年(令和15年)を目途に最終評価を行うこととされています。
国民健康・栄養調査
健康増進法第10条に基づき、厚生労働大臣は毎年「国民健康・栄養調査」を実施します。この調査は、国民の身体状況・栄養摂取量・生活習慣の実態を把握し、国民の健康増進の推進に役立てることを目的とした法定調査です。
調査の対象は国勢調査の地区から抽出された調査地区内の世帯であり、同一地区内において都道府県知事が調査世帯を指定します(第11条)。指定された調査世帯に属する者は調査に協力しなければならないとされています。調査のために収集された調査票は、調査目的以外に使用することが禁じられています(第14条)。
国民健康・栄養調査の結果は、健康日本21の目標設定・進捗評価のための基礎データとして活用されるほか、食事摂取基準の策定・健康政策の立案にも活用される重要な統計です。
健康増進事業(特定健診・保健指導等)
健康増進法第17条・第18条に基づき、市町村・都道府県・健康保険組合・国保連合会等は、住民・加入者等に対してがん検診・歯周疾患検診・骨粗しょう症検診・肝炎ウイルス検診などの健康増進事業を実施します。
なお特定健康診査(特定健診)・特定保健指導については、健康増進法ではなく「高齢者の医療の確保に関する法律(高確法)」を根拠として、医療保険者が40〜74歳の被保険者・被扶養者を対象に実施するものです。法律の根拠が異なる点は産業保健スタッフ・人事労務担当者として正確に押さえておくべきポイントです。
| 種類 | 根拠法令 | 実施主体 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 健康増進事業(がん検診等) | 健康増進法 | 市町村・都道府県等 | 地域住民 |
| 特定健康診査・特定保健指導 | 高齢者の医療の確保に関する法律 | 医療保険者(健保組合等) | 40~74歳の被保険者等 |
| 定期健康診断 | 労働安全衛生法 | 事業者 | 常時使用する労働者 |
特定給食施設に関する規定
健康増進法第20条は、「特定給食施設」に対する栄養管理の規定を定めています。特定給食施設とは「特定かつ多数の者に対して継続的に食事を供給する施設のうち、栄養管理が必要なものとして厚生労働省令で定めるもの」と定義されており、1回100食以上または1日250食以上の食事を提供する事業場・学校・病院・社員食堂等が対象となります。
特定給食施設の設置者には、栄養管理基準に従った栄養管理を行うことが義務づけられており、一定規模以上の施設には管理栄養士の配置が求められます。また都道府県知事等は特定給食施設に対して、栄養管理の状況の改善に関する指導・助言を行うことができ、勧告・命令に従わなかった場合は罰則の対象となります。社員食堂を設置・運営している企業にとっては直接関わる規定です。
受動喫煙防止に関する規定(2018年改正・2020年全面施行)
健康増進法の中で、企業の人事労務担当者が最も直接的に対応を求められるのが受動喫煙防止に関する規定です。平成30年(2018年)7月の法改正により大幅に強化され、令和2年(2020年)4月1日から全面施行されています。
健康増進法改正の背景と3つの趣旨
2018年の改正は、以下の3つの趣旨で行われました。望まない受動喫煙の防止を図ること、受動喫煙による健康影響が大きい子ども・患者等に特に配慮すること、施設の類型・場所に応じた対策を行うことの3点です。この改正により、受動喫煙対策は「マナー」から「ルール」へと変わり、違反には過料等の罰則が設けられました。
施設の区分と規制内容
改正健康増進法では、施設の種類に応じて規制内容が区分されています。
第一種施設(学校・病院・児童福祉施設・行政機関等)は敷地内禁煙が原則であり、屋内はもちろん屋外においても喫煙室を設けることができません。ただし、屋外において受動喫煙を防止するために必要な措置が取られた場所(特定屋外喫煙場所)に限り、喫煙場所を設置できます。
第二種施設(職場・飲食店・ホテル等、第一種施設以外の多数の者が利用する施設)は屋内原則禁煙です。基準を満たした専用の喫煙室(喫煙専用室・加熱式たばこ専用喫煙室・喫煙目的室等)を設けた場合に限り、その室内での喫煙が認められています。
| 施設区分 | 主な施設例 | 規制の原則 |
|---|---|---|
| 第一種施設 | 学校・病院・児童福祉施設・行政機関 | 敷地内禁煙(特定屋外喫煙場所のみ例外) |
| 第二種施設 | 職場・飲食店・ホテル・百貨店等 | 屋内原則禁煙(基準適合の喫煙室のみ例外) |
企業・事業場に対して求められる対応
企業・事業場は第二種施設に該当するため、原則として屋内全面禁煙とする必要があります。屋内に喫煙場所を設けたい場合は、以下の基準を満たした喫煙専用室の設置が必要です。
室内の気流が出入口で毎秒0.2m以上あること、たばこの煙が室外に流出しないよう壁・天井等で区画されていること、たばこの煙が屋外または屋外に準じる場所へ排気されていること、喫煙専用室である旨の標識を掲示すること、の4要件を満たす必要があります。また、20歳未満の者(従業員・客を問わず)は喫煙専用室への立入りが禁止されています。
健康増進法に違反した場合の罰則・過料
改正健康増進法では、違反に対して以下の罰則・過料が定められています。
| 違反内容 | 罰則・過料 |
|---|---|
| 喫煙専用室が技術基準に適合していない場合(施設管理者等) | 50万円以下の過料(第67条) |
| 禁煙エリアでの喫煙を止めない個人 | 50万円以下の過料(第67条) |
| 20歳未満の者を喫煙専用室等に立ち入らせた者 | 50万円以下の過料(第67条) |
| 特定給食施設の管理者が勧告・命令に従わない場合 | 50万円以下の罰金(第68条) |
健康増進法と労働安全衛生法の関係
受動喫煙防止に関しては、健康増進法だけでなく労働安全衛生法においても規定があります。両法の関係を正確に理解しておくことが実務上重要です。
労働安全衛生法第68条の2では「事業者は、室内又はこれに準ずる環境における労働者の受動喫煙を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする」として、受動喫煙防止措置が事業者の努力義務として定められています。また厚生労働省は「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」(令和元年7月1日付け基発0701第1号)を策定しており、健康増進法と一体的に参照することが推奨されています。
健康増進法が施設管理の観点から屋内原則禁煙・喫煙専用室の要件等を義務として規定しているのに対し、労働安全衛生法は事業者の労働者への安全配慮義務の観点から受動喫煙防止措置を努力義務として定めており、両法は相互補完的な関係にあります。
健康増進法に関するよくある質問
健康増進法を職場の健康づくりに活かすために
健康増進法は、国民の健康増進を総合的に推進するための基本法として、受動喫煙防止・栄養管理・国民健康・栄養調査・健康日本21の推進という幅広い内容を包含しています。企業の人事労務担当者・産業保健スタッフにとって最も直接的に関係するのは、受動喫煙防止規定(屋内原則禁煙・喫煙専用室の基準遵守)と、社員食堂等を運営する場合の特定給食施設に関する栄養管理規定です。
2020年の全面施行から5年以上が経過した現在においても、喫煙専用室の基準を満たしていない事例や受動喫煙対策が不十分な職場が存在することが指摘されています。2024年度から始まった健康日本21(第三次)では「社会環境の整備」が健康づくりの重要な柱として位置づけられており、職場での環境整備が求められる方向性は今後さらに強まることが予想されます。
まず自社の受動喫煙対策の現状を点検し、喫煙専用室が技術基準を満たしているか、屋外喫煙場所が非喫煙者の通行する場所から十分に離れているかを確認することから始めてみましょう。産業医・産業保健師とも連携しながら、健康増進法の趣旨を踏まえた職場の健康づくりを推進していただければと思います。

