家事支援サービスという言葉を耳にする機会が増えています。共働き世帯の増加や育児・介護による離職という社会課題を背景に、政府は2025年末の日本成長戦略会議においてその利用促進策を打ち出し、2026年4月には新たな国家資格(技能検定)の創設方針を正式に示しました。当解説記事では、家事支援サービスの定義・現状・各省庁の取組経緯・国家資格化の概要・税制優遇の検討状況を整理したうえで、企業の福利厚生や従業員の離職防止・ウェルビーイング向上への活用可能性についても人事労務担当者・産業保健スタッフ向けに解説します。
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家事支援サービスとは
家事支援サービスは、日常生活における家事負担を専門の事業者に委託できる仕組みとして、近年急速に注目が高まっています。
家事支援サービスの定義と類似業態との違い
経済産業省(令和6年5月)の資料によると、家事支援サービスとは「事業者のスタッフが利用者宅を訪問し、主に利用者宅において、家事に関する業務(掃除・洗濯・炊事等)の全部または一部を利用者に代わって行うサービス」と定義されています。
一般的に混同されやすいハウスクリーニングや家政婦(夫)とは以下の点で区別されています。
| サービス種別 | 主な特徴 |
|---|---|
| 家事支援サービス(家事代行) | 事業者と雇用契約を結んだスタッフが利用者宅を訪問し、掃除・洗濯・炊事等の家事全般を代行。定期利用が多い |
| ハウスクリーニング | 専門機材や洗剤を用いた専門的清掃。エアコンや換気扇等の限定的な対象。単発利用がメイン |
| 家政婦(夫) | 家政婦紹介所等の紹介を経て、各家庭と家政婦が直接的な雇用契約を結ぶ。事業者スタッフとは異なる |
なお、家事支援サービスは介護保険の適用外であり、利用者が全額自己負担する自費サービスです。この点が介護保険適用の訪問介護(生活援助)とも異なります。
家事支援サービス市場の現状
| 利用状況 | 割合 |
|---|---|
| 現在利用している | 1.8% |
| 以前は利用していたが現在は利用していない | 2.8% |
| サービスは知っているが利用したことがない | 75.7% |
| サービスを知らなかった | 19.7% |
出典:帝国データバンク「令和4年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(家事支援サービス業の実態把握・活用推進に係る調査)」
経済産業省の調査によると、国内の家事代行会社は全国に約190社あり、市場規模は約800億円とされています。一方で、家事支援サービスを「現在利用している」と回答した割合はわずか1.8%にとどまっています(帝国データバンク、令和4年度調査)。利用経験がある層は「以前は利用していたが現在は利用していない」を含めても約4.6%であり、サービスの認知度や普及率はまだ低い水準にあります。
なぜ今、家事支援サービスの促進が政策課題になっているのか
政府が家事支援サービスの利用促進を政策課題として取り上げる背景には、働き方の変化と人口構造の変化という2つの大きな流れがあります。
共働き世帯の増加と家事負担の偏在
内閣府「男女共同参画白書」によると、共働き世帯数は1980年代以降継続的に増加しており、2020年時点では専業主婦世帯を大きく上回っています。共働き世帯が標準となった今も、家事・育児の負担は依然として女性に偏る傾向が続いています。
経済産業省の資料に引用された令和4年度少子化社会対策白書のデータでは、6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児関連時間について、妻が1日7時間以上であるのに対して夫は3時間45分(2016年)と、大きな差が残っています。こうした負担の偏在は、特に女性の就業継続に影響を与えており、キャリアの断絶・離職・労働時間の制約という形で経済損失をもたらしています。
育児・介護による離職という社会課題
政府の資料によると、出産・育児を理由とする離職者は年間約15万人、家族の介護・看護を理由とする離職者は年間約11万人にのぼります。いわゆるビジネスケアラー(仕事をしながら家族の介護を行う人)の増加も緩やかな増加傾向にあり、今後の高齢化の進展とともにこの数はさらに拡大することが懸念されています。
家事支援サービスを活用することで、育児中の保護者や介護をしながら働く労働者の家事負担が軽減され、就業継続・フルタイムへの復帰・キャリアアップが促進されることへの期待が高まっています。労働力の確保という観点からも、家事支援サービスの普及は成長戦略の重点課題として位置づけられています。
経済産業省・厚生労働省による取組の経緯
経済産業省は早くから家事支援サービス市場の実態把握と活用推進に取り組んできました。令和4年度から帝国データバンクへの委託調査を通じて家事支援サービス業の実態・利用実態・利用障壁等を把握し、令和6年5月には「家事支援サービスの活用にかかる取組について」と題した資料を内閣府・男女共同参画推進連携会議の場で公表しました。
経済産業省の家事支援サービス活用推進
同資料では、家事支援サービスの利用が利用者にもたらす効果として、家事負担の軽減(「そう思う」以上が78.8%)・パートナーとの関係改善(80.0%)・仕事の時間の確保(88.3%)・精神的余裕の創出(100%)といった高い数値が報告されています。また、企業の福利厚生経由でのサービス提供が利用促進につながる可能性として、未利用者の56.4%が「繋がる」または「やや繋がる」と回答したことも示されており、職場を通じた普及の有効性が示唆されています。
令和6年度には「商取引・サービス環境の適正化に係る事業(家事支援サービス業の実態把握・活用推進に係る調査)」をデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に委託し、さらなる実態把握を進めました。
日本成長戦略会議における利用促進策の打ち出し
2025年12月24日に開催された政府の「日本成長戦略会議」では、家事支援サービスおよびベビーシッターの利用促進策が正式に打ち出されました。家事等の負担軽減は高市首相が公約として掲げてきた政策課題でもあり、離職防止・労働力の確保・ウェルビーイングの向上を実現する手段として政府が本格的に推進姿勢を示したものです。
そして2026年4月22日、日本成長戦略会議(第4回)において、家事支援サービスに従事する人を対象とした国家資格(技能検定)を創設する方針が正式に決定されました。
家事支援サービスの国家資格化(技能検定)の概要
新たな国家資格は、職業能力開発促進法に基づく「技能検定」の職種として位置づけられます。技能検定は現在133の職種があり、建設・金属加工等の分野に多く設置されています。新職種の追加に法改正は不要であり、厚生労働省令の改正で対応できます。
技能検定として創設される背景と制度の性格
技能検定の合格者は名称独占の国家資格「技能士」を名乗ることができます。制度の性格について政府関係者は「民間検定の単なる格上げではなく、技能検定という国家資格の枠組みを使い、職務分析に基づいて品質と信頼性の基準を設ける設計思想」と説明しています。
想定されるサービスの対象は、介護保険制度の適用範囲外となる「周辺の自費サービス」の担い手育成です。ただし介護を含む内容も担うことが想定されており、高齢化社会のなかで介護保険外の市場が拡大する可能性も念頭に置かれています。
「家政士」検定との関係
政府が国家資格化の参考としているのが、一般社団法人日本看護家政紹介事業協会が2016年より実施している「家政士検定」です。厚生労働大臣が民間の能力評価の枠組みを認定する「団体等検定」のひとつとして位置づけられており、現在の家政士資格保有者は約1,100人とされています。
政府は、この家政士検定をベースとしながら家事支援サービスの技能検定を設計することを視野に入れており、既存の民間資格の蓄積を国家資格の枠組みに組み込む形が検討されています。
国家資格化のスケジュールと今後の工程
内閣官房「日本成長戦略会議(第4回)資料」(2026年4月)による今後の工程です。
所管省庁は厚生労働省と経済産業省の連携であり、業界団体(一般社団法人全国家事代行サービス協会等)や日本看護家政紹介事業協会との調整を進めながら制度設計が行われる予定です。
| 時期 | 主な工程 |
|---|---|
| 2026年夏まで | 業界団体との調整・職務分析表、検定試験内容の作成着手 |
| 2026年内 | 試行試験・審議会手続き等 |
| 2027年秋頃 | 第1回国家資格(技能検定)試験の実施(目標) |
利用者向けの税制優遇措置の検討状況
政府は家事支援サービスの利用を促進するため、国家資格者が提供するサービスを利用する人への税制優遇措置の導入も検討しています。
現時点では具体的な優遇額・控除方式・対象条件等の詳細は確定していませんが、参考事例として政府が示しているのがフランスの制度です。フランスでは、家事支援サービスの利用に対して税額控除制度が設けられており、実際に負担した支出の50%相当額が控除される仕組みで、年間支出の基本上限額は12,000ユーロとされています(扶養する子どもや65歳超の世帯員の数等に応じて上限が引き上げられる制度あり)。
日本でも、国家資格者が提供する家事支援サービスに対して税制上の優遇措置を設けることで、価格面の障壁を下げて利用促進を図る方向が検討されています。2026年現在、具体的な制度内容は今後の政府・与党の検討を経て確定される見通しであり、最新の動向に注目が必要です。
国家資格化・利用促進策に期待される効果と課題
家事支援サービスの国家資格化・利用促進策が実現した場合、以下のような効果が期待されています。
期待される効果
家事支援サービスを利用しない理由の上位として「他人に家の中に入られることへの抵抗感(20%)」「セキュリティへの不安(11%)」「サービスの質への不安(4%)」が挙げられています(帝国データバンク調査)。国家資格化によって一定の専門性・品質基準が可視化されることで、こうした心理的抵抗感の緩和が期待されます。
また、育児・介護を理由とする年間約26万人(育児15万人・介護11万人)の離職抑制・就業継続の促進という効果も見込まれています。さらに利用者のウェルビーイング向上という観点では、家事支援サービスを利用した人の88.3%が「仕事の時間を確保できるようになった」と回答していることは、特に人事労務担当者として注目すべきデータといえます。
費用や供給面の課題
一方で、現状においていくつかの課題も指摘されています。
利用しない理由の最多回答(20%)は「価格が高い」であり(帝国データバンク調査)、税制優遇が実現したとしても中低所得層には依然として費用面の障壁が残る可能性があります。また、家事支援サービスの担い手は主に女性が多く、資格化・待遇改善が担い手確保につながるかという供給面の課題もあります。さらに、介護保険の訪問介護(生活援助)との役割分担の整理については、今後の制度設計のなかで丁寧な議論が必要です。
企業の福利厚生・産業保健への活用可能性
企業の人事労務担当者や産業保健スタッフにとって、家事支援サービスは従業員の離職防止・ウェルビーイング向上・仕事と生活の両立支援という観点から、職場の取り組みに活用できる可能性があります。
経済産業省の調査では、「所属企業の福利厚生サービス経由での提供」があれば利用に繋がると答えた未利用者が56.4%にのぼっており、企業が福利厚生として家事支援サービスを導入することが、個人の自発的な利用促進よりも効果的な入口になりうることが示されています。
実際に大手企業の一部では、従業員向け福利厚生として家事代行サービスの割引・補助を提供する取り組みが始まっています。育児中・介護中の従業員への支援策として位置づけることで、離職防止・職場復帰の促進・プレゼンティーイズム(体調・生活上の支障を抱えながら働くことによる生産性低下)の改善にも寄与することが期待されます。
また産業保健の観点からも、家事負担による慢性的な疲労やストレスが健康問題やメンタルヘルス不調につながるリスクを考えると、家事支援サービスの活用支援は職場の健康経営施策のひとつとして位置づけることもできます。健康経営優良法人の認定評価においても、「仕事と育児・介護の両立支援」が重要な項目として含まれており、企業として具体的な取り組み実績を示す手段にもなりえます。
家事支援サービスに関するよくある質問
家事支援サービスの普及が職場の働き方を変えるために
家事支援サービスをめぐる政府の動きは、単なるサービス産業の育成にとどまりません。育児・介護による年間26万人超の離職を抑制し、働く人の生活の質を向上させ、日本の労働力と経済成長を支えるという大きな政策目標に向けた取り組みです。
当解説記事でご紹介したとおり、2026年4月に政府が正式に方針を示した国家資格(技能検定)は2027年秋頃の第1回試験実施を目指して制度設計が進められており、利用者向けの税制優遇措置も並行して検討されています。これらが実現すれば、家事支援サービスへの心理的・費用的なハードルは大きく下がることが期待されます。
人事労務担当者・産業保健スタッフとして、この動きを先取りする形で「家事支援サービスを従業員の健康と両立支援につながる福利厚生として活用できないか」を検討し始めることが、従業員定着・離職防止・ウェルビーイング向上に向けた先進的な取り組みにつながります。まずは経済産業省が提供している調査資料や内閣官房の成長戦略会議の資料を確認しながら、自社の従業員ニーズと照らし合わせて検討を始めていただければと思います。

