2026年4月からの新年度、企業の人事労務の変化点について多くの担当者様が準備を急がれている時期ではないでしょうか。人手不足が深刻化する中で、女性やシニア、さらには病気を抱える方々が安心して働ける環境を整えることは、単なる法遵守を超えた企業の存続戦略となります。当解説記事では、各省庁の最新資料に基づき、今回行われる重要な制度変更の内容と、企業が取り組むべき具体的なステップを丁寧にまとめました。この記事を通じて、皆様の会社がよりウェルビーイングな組織へと進化するための一助となれば幸いです。
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2026年4月に迎える人事労務の大きな転換点
2026年4月は、日本の労働環境において非常に大きな意味を持つ時期となります。労働力人口の減少が加速する中で、多様な人材がそれぞれの事情を抱えながらも能力を最大限に発揮できる社会を目指し、複数の重要な法改正や制度の見直しが同時に施行されるためです。
これまで以上に、人事労務担当者や産業保健スタッフの皆様には、法律の文面を理解するだけでなく、それを現場の運用にどう落とし込み、従業員のウェルビーイング向上に繋げていくかという視点が求められます。
法改正の背景と求められる企業の姿勢
今回の変化の背景には、持続可能な社会保障制度の維持と、生産性の向上という二つの大きな課題があります。高年齢者が年金の減額を気にせずに働ける環境を作ることや、病気療養中の労働者が離職せずに仕事を続けられる仕組みを整えることは、社会全体で労働力を支えるために不可欠です。企業に求められるのは、これらの改正をコストや事務負担の増加と捉えるのではなく、優秀な人材を確保し、定着させるための攻めの人事施策として活用する姿勢です。透明性の高い情報公表を行い、安全で配慮の行き届いた職場であることをアピールすることは、採用ブランディングにおいても強力な武器となります。
女性活躍推進法に基づく情報公表義務の拡大
女性活躍推進法は、女性が職業生活においてその希望と能力を十分に発揮できる社会を実現するための法律です。2026年4月からは、この法律に基づく情報公表の対象がさらに拡大されます。これまでは従業員数が301人以上の企業に課せられていた義務が、従業員数101人以上の企業にまで広がり、より多くの中堅企業が具体的な数値の公表を求められるようになります。
中堅企業も対象となる男女間賃金差異の公表
今回の改正の大きなポイントの一つは、男女の賃金の差異に関する情報の公表義務化です。従業員数が101人以上の企業に対し、全労働者、正社員、パート・有期社員それぞれの区分ごとに、男性の賃金に対する女性の賃金の割合をパーセントで算出・公表することが求められます。この公表は、単に数字を出すだけでは不十分です。もし差異が大きい場合には、その背景にある理由(役職者の男女比、勤続年数の差、職種構成など)を分析し、どのように改善していくかという説明もあわせて準備しておくことが、企業の信頼性を高めることに繋がります。
女性管理職比率の公表と数値目標の重要性
男女間賃金差異と並んで公表が必須となるのが、女性管理職比率です。これは、組織の意思決定の場にどれだけ多様な視点が入っているかを示す指標として、投資家や求職者からも厳しくチェックされる項目です。企業は自社の現状を把握した上で、無理のない範囲で、かつ意欲的な数値目標を設定し、一般事業主行動計画を策定・届け出する必要があります。産業保健スタッフの視点からは、女性特有の健康課題への理解促進や、柔軟な働き方の整備を通じて、キャリア継続を支援する体制づくりが期待されます。
治療と仕事の両立支援に関する努力義務化
近年、がんや脳卒中、心疾患、糖尿病といった疾病を抱えながら働く労働者が増加しています。医療技術の進歩により、通院しながら仕事を継続できるケースが増えている一方で、職場の理解不足や制度の不備によって離職せざるを得ないケースも少なくありません。こうした状況を改善するため、2026年4月より、労働施策総合推進法の改正に伴い、すべての企業に対して治療と仕事の両立支援が努力義務化されます。
労働施策総合推進法の改正と企業の役割
今回の改正により、事業主は病気を抱える労働者が治療を受けながら意欲を持って働き続けられるよう、必要な環境整備を行うことが求められます。具体的には、病気に対する偏見をなくすための啓発活動や、柔軟な勤務形態の導入、相談しやすい体制の構築などが挙げられます。
努力義務ではありますが、法的根拠が明確になったことで、企業としての責任はより重くなります。万が一、病気を理由に不適切な取り扱いをした場合には、企業イメージの悪化や法的リスクに繋がる可能性も考慮しなければなりません。
産業保健スタッフと連携した体制整備のステップ
両立支援を成功させる鍵は、主治医、産業医、そして企業の三者連携です。人事労務担当者は、まず社内の相談窓口を明確にし、労働者が安心して自身の健康状態を申し出られる環境を作ります。次に、主治医からの情報を基に、産業医が就業上の配慮事項(勤務時間の制限や作業内容の変更など)を判定し、それを受けて会社が具体的な支援プランを策定します。以下の表に、企業が整えるべき主な要素をまとめました。
| 項目 | 具体的な取り組み内容 |
|---|---|
| 基本方針の策定 | 社長名などで両立支援に取り組む姿勢を内外に周知する |
| 相談窓口の設置 | 人事担当者や保健師など、プライバシーを保護しつつ相談できる担当を決める |
| 休暇・勤務制度 | 時間単位の有給休暇、時差出勤、在宅勤務などの柔軟な制度を導入する |
| 社内研修の実施 | 病気に対する理解を深め、同僚のサポートを促すための教育を行う |
60歳以上の労働者における労働災害防止の努力義務化
高年齢労働者の増加に伴い、職場での転倒や墜落、腰痛といった労働災害が増加傾向にあります。若年層に比べて怪我の回復に時間がかかり、重症化しやすいという特徴もあるため、2026年4月より、60歳以上の労働者に対する労災防止対策が労働安全衛生法上の努力義務となります。
高年齢労働者の特性に配慮した安全衛生管理
加齢に伴い、視力や聴力の低下、バランス能力の衰え、筋力の減少などは避けられません。事業者はこれらの身体的変化を個人の問題として片付けるのではなく、職場の設備や作業方法を見直すことでリスクを低減させる義務があります。まず行うべきは、現在の作業環境におけるリスクアセスメントです。段差の有無、照明の明るさ、床の滑りやすさなど、高年齢者の視点から現場を再点検することがスタートラインとなります。
エイジフレンドリーな職場環境づくりの具体策
厚生労働省が提唱するエイジフレンドリーガイドラインに基づき、具体的な対策を進めることが推奨されます。ハード面の対策としては、手すりの設置や防滑床への改修、重量物運搬を補助する機器の導入などがあります。ソフト面の対策としては、ストレッチの習慣化による身体機能の維持や、自身の体力を客観的に把握するための体力測定の実施が有効です。
特に産業保健スタッフの皆様には、定期健康診断の結果を活用した健康指導だけでなく、フレイル(加齢による心身の衰え)予防に向けた啓発活動など、予防医学的なアプローチが期待されます。
参考リンク: エイジフレンドリーガイドライン(厚生労働省)
在職老齢年金制度の見直しとシニア層の活躍推進
高齢者の就労意欲を阻害している要因の一つに、在職老齢年金制度がありました。これは、厚生年金に加入しながら働く方の給与と年金の合計額が一定基準を超えると、年金の一部または全額が支給停止される仕組みです。2026年4月から、この基準が大幅に緩和されます。
支給停止調整額の引き上げがもたらすメリット
2026年4月より、支給停止が開始される基準額(支給停止調整額)が、現行の月額51万円から65万円へと引き上げられます。これにより、比較的高い給与を受け取っている熟練の専門職や管理職の方々が、年金のカットを気にすることなくフルタイムや高単価の契約で働き続けることが可能になります。企業にとっては、豊富な経験を持つシニア人材を、より戦力として活用しやすい環境が整うことになります。
| 項目 | 2026年3月まで | 2026年4月から |
|---|---|---|
| 支給停止調整額 | 月額51万円 | 月額65万円 |
| 対象者 | 60歳以上の厚生年金受給者 | 同左 |
年金の壁を意識しない柔軟な働き方の実現に向けて
これまでは年金額を減らさないために、あえて就業時間を短くしたり、給与を低く抑えたりする「働き控え」が発生していました。今回の改正によって、この心理的な壁が大きく下がります。人事労務担当者は、対象となるシニア世代の従業員に対し、制度変更の内容を丁寧に説明し、改めてキャリア面談を行うのが良いでしょう。本人の希望と能力に応じた適切な役割と報酬を提示することで、モチベーションの向上と労働力確保を両立させることができます。
実務対応のポイント
これらの多岐にわたる改正に対応するためには、計画的な準備が欠かせません。施行直前になって慌てることのないよう、社内での合意形成や規定の改定を進めていく必要があります。
| 実施ステップ | 具体的な取り組み内容とポイント |
|---|---|
| 1. 自社の現状把握 | まず取り組むべきは、自社の現状把握です。女性活躍推進法における従業員数のカウント、高年齢労働者の作業環境チェック、そして両立支援に関する現行制度の有無を確認します。 |
| 2. 規定の改定案作成 | 次に、就業規則や諸規定の改定案を作成します。特に治療と仕事の両立支援については、新たな休暇制度や短時間勤務制度の導入を検討する場合、労働組合や従業員代表との協議が必要になることもあるでしょう。 |
| 3. 周知と教育 | 最後に、従業員への周知と教育です。制度が変わることを知らせるだけでなく、なぜその変更が必要なのかという背景(ダイバーシティの推進やウェルビーイングの向上)を伝えることで、社内の理解と協力も得やすくなります。 |
当解説記事でご紹介した内容は、いずれも働く人々の健康と幸せを守りつつ、企業の競争力を高めるための重要なステップです。一つひとつの対応を丁寧に行うことで、2026年4月をより良い組織づくりの契機としていただければ幸いです。
