ストレスチェックは意味ない?無駄だという経営者と従業員の理解を引き出すためのポイント

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構

 「ストレスチェックをいくら実施しても、職場が良くなる実感が持てない」「経営層からコストばかりかかると言われてしまう」と、日々の業務に孤独感や疑問を感じてはいませんか。実は、ストレスチェックは単なる義務ではなく、企業の利益を守り、成長へと導くための強力な羅盤となる可能性を秘めています。

 当解説記事では、メンタルヘルスの不調が企業業績に与える具体的な損失や、従業員が抱える「自分は大丈夫」という無意識の壁、そして形骸化させないための集団分析の活用法について、最新の調査結果をもとに詳しくお伝えします。この記事を読み終える頃には、ストレスチェックを通じて職場をどう変えていくべきか、その具体的な道筋が見えてくるはずです。

貴社のストレスチェックを形骸化させる「意味がない」という誤解の正体

多くの企業でストレスチェックが義務化されてから時間が経過しましたが、いまだに現場や経営層から「ストレスチェックは意味がない」という声が上がるのはなぜでしょうか。その背景には、ストレスチェックを継続して実施することによる効果や、メンタルヘルスの悪化が企業に与える影響が目に見えにくいという特性があります。

ストレスチェックが意味がないと言われる背景や有効活用していくための解説画像
ストレスチェックは本当に意味がない?(クリックで拡大)

経営者視点:見過ごしがちなメンタル不調が自社業績に与えるタイムラグ

精神疾患を抱える従業員が増加することは、単なる個人的な問題にとどまりません。経済産業研究所の調査によれば、メンタルヘルスの不調により連続1ヶ月以上休業する従業員の比率(メンタルヘルス休職者比率)は、約2年のタイムラグを伴って売上高利益率に負の影響を与える可能性が示されています(*1)。これは、不調者が出た直後には影響が見えにくくても、数年かけてじわじわと組織全体の生産性を押し下げ、最終的に利益を毀損させることを意味しています。つまり、今ストレスチェックを軽視することは近い将来の自社への悪影響を放置することと同義といっても過言ではありません。

(*1) 経済産業研究所(RIETI)企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績P12

従業員視点:「自分だけは大丈夫」という過信

従業員の側にも、ストレスチェックを軽視する心理的要因があります。日本イーライリリー株式会社が実施した患者調査によると、うつ病と診断された方のうち、実に約6割が「自分がうつ病になる可能性があると思っていなかった」と回答しています。

また、最初に症状を感じてから医療機関を受診するまでに「1年以上」を要した人が4人に1人(27.3%)に上るという実態も明らかになっています。受診を遅らせた理由のトップは「自分の頑張りや気持ちの持ちようで解決できると思ったから(45.9%)」です。このように、個人の精神論に頼りすぎる風土が、病状を悪化させ、結果として企業に莫大な損失(日本全体で年間約2.7兆円とも推計される)をもたらしているのです。

経営層を説得するための、メンタルヘルス施策の経済的価値

ストレスチェック担当者が経営層に理解を求める際、最も説得力を持つのは「数値に基づいた経営リスクの提示」です。

メンタル不調による損失コストの構造

従業員のメンタル不調による損失は、以下の3つの要素で構成されます。

用語 内容・詳細
アブセンティイズム(欠勤) 休職による労働力の直接的な喪失。
プレゼンティイズム(出勤時の生産性低下) 心身の不調を抱えたまま業務を行うことで、生産効率やモラールが低下する状態。
リプレイスメントコスト 離職に伴う採用費用や教育訓練費用の埋没化。

特に人的投資を重視する企業ほど、育成した人材の離職や生産性低下による影響は大きくなります。

有効な施策と主観的な効果のギャップ

企業が導入しているメンタルヘルス施策は多岐にわたりますが、どれが本当に効果的なのかを把握しておく必要があります。

施策内容 導入率 効果があると感じる企業の割合
管理監督者への教育研修・情報提供 60% 48.5%
相談対応窓口の開設 56% 36.1%
職場復帰における支援 43% 64.6%
ストレス状況などのアンケート調査 26% 49.3%
職場環境等の評価および改善 27% 58.1%

(注:RIETIデータより構成。導入率は概数値)

特に注目すべきは、「職場環境等の評価および改善」や「ストレス状況などのアンケート調査(ストレスチェックを含む)」は、導入コストがかかるものの、導入した企業では高い効果を実感しているという点です。客観的な分析結果に基づき、職場単位で環境改善を行うことが、メンタルヘルス休職者比率を有意に引き下げる要因となります。

従業員の理解を深め、ストレスチェック受検へつなげる啓蒙ポイント

「ストレスチェックなんてただのアンケートだろう」と考えている従業員に対し、その重要性を伝えるには、単なる精神論ではなく、具体的かつ多様な症状への理解を促すことが不可欠です。

「心の不調」以外のサインを見逃さない

うつ病などのメンタル不調は、「気分の落ち込み」だけではありません。前述のイーライリリーの調査によると、「気分の落ち込み・眠れない」という症状については72.3%の人が理解していますが、「だるい、重い、体の痛み」といった身体症状がうつ病に関連していると理解していた人は50.3%にとどまります。また、ストレスチェックの結果をもとに、周囲に相談したり、適切な治療を受けたりすることがいかに重要かも伝えるべきです。

従業員への啓発においては、以下のサインを「身体的な疲れのせい」で片付けないよう伝えることが重要です。

  • 体のあちこちが重く感じる、痛む(頭痛、首痛、肩痛、腰痛など)
  • 身の回りのことがおっくうになる(着替えや歯磨きができない)
  • 集中力の低下(本の内容が頭に入ってこない)

集団分析から職場環境改善へ繋げるステップ

ストレスチェックを単なる個人診断で終わらせては、真のメリットは得られません。担当者が取り組むべきは、集団分析を活用した職場改善です。

長時間労働の是正とWLB(ワークライフバランス)の推進

調査結果は明確に示しています。長時間労働はメンタルヘルスを毀損させる直接の要因であり、これを是正することは休職者比率を下げるために不可欠です。一方で、単に「早く帰れ」と指示するだけでは不十分です。会社の制度として以下のWLB(ワークライフバランス)施策を組み合わせることで、より効果的なリスク管理が可能になります。

  • フレックスタイム制度の導入: 柔軟な働き方がストレス軽減に寄与する。
  •  WLB推進組織の設置: 組織として働き方改革に取り組む姿勢を明確にする。

衛生委員会での実効性のある審議

経済産業研究所の分析(*2)では、衛生委員会等でのメンタル対策審議を有意に行っている企業では、メンタルヘルス休職者比率が低い傾向が確認されています。ストレスチェックの数値結果をただ報告するだけでなく、その背景にある職場の課題(業務量の偏り、コミュニケーションの欠如など)を産業医や労働者側委員とともに深く掘り下げることが、実効性のある対策につながります。

(*2) 経済産業研究所(RIETI)企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績P11


「ストレスチェックは意味がないのか」という問いに対する答えは、明確に「ノー」です。それは、目に見えない経営リスクを可視化し、2将来の利益を守り、従業員にいきいきと活躍してもらうための重要な経営施策です。

視点 具体的な考え方・目的
経済的視点 メンタル不調の防止は、将来にわたっての利益を守るための投資である。
教育的視点 従業員に対し、心の不調が「体の痛み」や「意欲の減退」として現れることを正しく伝える。
組織的視点 ストレスチェックの数値から職場環境の歪みを読み取り、具体的な改善(WLBの推進等)へ繋げる。

メンタルヘルスの問題は、時に「性格の問題」や「甘え」と誤解されることがありますが、それは間違いです。企業が労働安全衛生法に基づき、科学的な知見から組織を管理することは、従業員のウェルビーイングのみならず、持続可能な企業成長の基盤となります。