労働災害防止計画とは?最新の第14次計画とともに解説

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構

厚生労働省が策定する「労働災害防止計画」は、日本のすべての事業場において安全衛生対策の指針となる極めて重要なロードマップです。2023年度からは「第14次労働災害防止計画」がスタートし、これまでの安全対策に加え、人的資本経営やDX(デジタルトランスフォーメーション)の視点が盛り込まれました。

本記事では、人事労務担当者や産業保健スタッフの皆様に向けて、労働災害防止計画の基礎知識から、第14次計画で掲げられた具体的な数値目標、そして現場で取り組むべき重点事項について分かりやすく解説します。

【参考リンク】

第14次労働災害防止計画(厚生労働省)

職場のあんぜんサイト(厚生労働省)

労働災害防止計画とは?制度の目的と歴史

労働災害防止計画は、労働災害を減らし、労働者が安全で健康に働くことができる職場環境を実現するために、国が策定する5か年の中期計画です。

1958年から続く安全衛生の指針

この計画は、戦後の高度経済成長期における産業災害や職業性疾病の急増を受け、1958年に第1次計画が策定されました 。以来、社会経済の情勢や技術革新、働き方の変化に対応しながら、これまで13次にわたり策定・実施されてきました 。国、事業者、労働者などの関係者が協働して取り組むべき事項や目標を示すことで、我が国の安全衛生水準を大幅に改善させる役割を担っています 。

労働災害防止計画の制度概要、必要性、14次計画の要点等総合的な解説画像
労働災害防止計画の概要(クリックで拡大)

第14次計画の基本理念と期間

現在進行中の第14次労働災害防止計画は、2023年度(令和5年度)から2027年度(令和9年度)までの5年間を計画期間としています 。

この計画では、「一人の被災者も出さない」という基本理念を掲げ、すべての労働者が安全で健康に働くことができる社会を目指しています 。

なぜ今、新しい計画が必要なのか?労働現場の現状

第14次計画が策定された背景には、近年の労働現場における深刻な課題があります。

死亡者数は減少、しかし「死傷者数」は増加

日本の労働現場における死亡者数は長期的には減少傾向にあります 。しかし一方で、休業4日以上の「死傷者数」については、近年増加傾向にあり、予断を許さない状況が続いています 。

変化する労働災害の要因

死傷災害が増加している背景には、主に以下の4つの要因が挙げられます 。

  • 高年齢労働者の増加: 労働災害発生率(年千人率)が高い60歳以上の労働者が増えていること 。
  • 第三次産業の拡大: 小売業や社会福祉施設など、機械設備よりも「転倒」や「動作の反動・無理な動作」による災害が多い業種が増加していること 。
  • 中小事業場での取組不足: 厳しい経営環境などを理由に、安全衛生対策に十分な人員や予算を割けない状況があること 。
  • 新たな働き方: デリバリーサービスの需要拡大や、テレワークの普及による健康管理の難化 。

第14次労働災害防止計画の「8つの重点事項」

第14次計画では、現状の課題を踏まえ、以下の8つの項目を重点事項として定めています 。

No. 重点事項(推進項目)
1 自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発
2 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
3 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
4 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
5 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
6 業種別の労働災害防止対策の推進(陸上貨物、建設、製造、林業)
7 労働者の健康確保対策の推進(メンタルヘルス、過重労働防止)
8 化学物質等による健康障害防止対策の推進

企業が注目すべき具体的な数値目標(アウトプット指標)

この計画では、2027年度までに達成すべき具体的な数値目標が設定されています。特に人事労務に関連の深い項目をピックアップします。

メンタルヘルス・健康管理の目標

  • メンタルヘルス対策: 取り組む事業場の割合を80%以上とする 。
  • 小規模事業場のストレスチェック: 50人未満の事業場での実施率を50%以上とする 。
  • 年次有給休暇: 取得率を2025年までに70%以上とする 。
  • 勤務間インターバル制度: 導入企業の割合を2025年までに15%以上とする 。

転倒・腰痛防止対策の目標

  • 転倒災害対策: ハード・ソフト両面からの対策に取り組む事業場の割合を50%以上とする 。
  • エイジフレンドリー: 高年齢労働者のためのガイドラインに基づく取組を行う事業場の割合を50%以上とする 。

これからの安全衛生対策に求められるDXと人的資本

第14次計画の大きな特徴は、テクノロジーの活用と、経営戦略としての安全衛生を重視している点です。

安全衛生におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進

国は、最新技術を用いた効率的・効果的な活動を推奨しています 。

  • AIやウェアラブル端末の活用: 作業者の行動を検知して危険を知らせる、あるいは遠隔管理を行う 。
  • VR(仮想現実)教育: 危険な作業を仮想空間で体験し、感受性を高める 。
  • 電子申請の原則化: 労働者死傷病報告などの電子申請を推進し、データ分析を強化する 。

「人件費」から「人的投資」へのパラダイムシフト

これまでの安全衛生対策は「コスト」として捉えられがちでした。しかし本計画では、安全衛生への取り組みを人的資本への投資と位置づけています 。労働者の安全と健康を確保することは、人材の確保・定着、そして生産性の向上に直結し、企業の価値を高めるプラスの要素であるという理解が求められています

現場で今すぐできるアクションプラン

第14次計画の目標達成に向けて、企業が今日から取り組めるアクションを提案します。

1. 「見える化」による自発的な取組

自社の労働災害発生状況や、安全衛生マネジメントシステムの導入有無を可視化しましょう。国は「人的資本可視化指針」に基づき、健康・安全関連事項の情報開示を支援しています 。

2. 転倒・腰痛予防の教育

特に第三次産業(小売・介護等)では、中高年齢女性の転倒が大きなリスクです 。

  • 段差の解消などのハード対策 。
  • 筋力維持のための運動プログラムの導入などのソフト対策 。
  • ノーリフトケア(抱え上げない介護)の導入 。

3. 外国人労働者への配慮

外国人労働者を雇用している場合、母国語に翻訳された教材や、視覚的に理解しやすいピクトグラム、動画などを用いた教育を実施しましょう。

2027年までにこうした配慮を行う事業場を50%以上にすることが目標です 。

労働災害防止計画に関するよくある質問

Q1. 国が策定する労働災害防止計画とは、どのような内容の計画ですか?
労働安全衛生法に基づき、国が5年1期で策定する労働災害削減のためのロードマップです。現在は2023年度から2027年度までの第14次労働災害防止計画が運用されており、死亡災害の削減数値目標だけでなく、メンタルヘルス対策、高年齢労働者の転倒防止、多様な働き方への対応など、時代に即した重点対策が示されています。
Q2. すべての企業に、自社独自の計画を作成して行政へ提出する義務がありますか?
すべての企業に提出義務があるわけではありません。しかし、特定の業種や大規模事業場では安全衛生管理計画の策定が事実上求められるほか、労働災害が多発した事業場に対しては、労働基準監督署長から安全衛生改善計画の作成、提出を命じられることがあります。これは法的な義務となります。
Q3. 第14次労働災害防止計画において、人事労務担当者が注目すべき重点項目は何ですか?
従来の身体的な事故防止に加え、以下の3点が強力に推進されています。
1.ストレスチェック結果の活用や職場環境改善などのメンタルヘルス対策
2.高年齢労働者の転倒や腰痛を防ぐための身体機能維持、環境整備
3.テレワークや副業、兼業者などの多様な働き方における安全健康確保
Q4. 自社の安全衛生計画を策定する際、盛り込むべき必須項目にはどのようなものがありますか?
実効性を持たせるためにPDCAサイクルに沿った以下の項目を盛り込むのが一般的です。
1.経営トップによる基本方針
2.具体的な数値目標
3.実施事項
4.実施体制
5.評価および見直し手順
Q5. 計画が形骸化するのを防ぎ、現場の従業員を主体的に巻き込むための工夫はありますか?
計画を単に提示するだけでなく、参加型の運用が有効です。現場の従業員からヒヤリハット報告を積極的に募り、その内容を次回の計画や対策に反映させることで、自分たちの安全が自分たちの意見で守られているという意識を醸成することができます。また、計画の要点をポスター等で視覚化することも重要です。
Q6. 労働災害防止計画にデジタルトランスフォーメーションは活用できますか?
AIカメラによる危険エリアへの侵入検知、ウェアラブル端末による心拍、体温監視、VRを用いた災害擬似体験教育などの導入が有効です。これらを計画の一部に組み込むことで、経験や勘に頼らないデータに基づいた高度な安全管理を構築することができ、第14次計画でもその活用が推進されています。
Q7. 計画を策定せず、具体的な対策を怠っている状態で事故が発生した場合、どのようなリスクがありますか?
安全配慮義務を組織的に果たしていなかったとみなされ、損害賠償請求において企業側に非常に不利な判断が下されるリスクが高まります。また、計画的な対策を怠った結果の事故は労働基準監督署からの是正勧告や社名公表の対象になりやすく、企業の社会的信用の失墜に直結します。

第14次労働災害防止計画は、単なる国の努力目標ではなく、企業が持続的に成長し、労働者の命と健康を守るための具体的なマニュアルです。

  • 現状の把握: 死亡災害は減っているが、身近な「転倒」や「腰痛」などの死傷災害が増えている。
  • 計画の活用: 5年間の計画期間内に、自社のメンタルヘルス対策や高年齢者対策を強化する。
  • 新しい視点: DXを活用し、安全衛生を「コスト」ではなく「未来への投資」として捉える。

労働者一人一人が安心して働ける環境づくりは、結果として企業の競争力強化につながります。最新の計画に基づき、自社の安全衛生管理体制を見直してみてはいかがでしょうか。