コンプライアンスとは?|企業の信頼を守る人事労務が知っておくべき情報を解説

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構

コンプライアンスという言葉は、人事労務や産業保健の現場で日常的に耳にするようになりました。しかし、法改正が相次ぐ中で「具体的に何をどこまで行えばよいのか」と悩まれる担当者の方も多いのではないでしょうか。当解説記事では、厚生労働省やデジタル庁などの公的な最新資料に基づき、現代の企業に求められる法令遵守と倫理的対応の全体像を整理します。 

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企業におけるコンプライアンスの現代的な定義

コンプライアンスという言葉は、もともと英語のcompliance(従うこと)に由来しており、日本では一般的に法令遵守と訳されてきました 。しかし、近年の企業経営において求められるコンプライアンスの範囲は、単に法律を守るだけにとどまりません。

コンプライアンスの定義、対象、リスクなどのコンプラに関する総合的な説明画像
コンプライアンスとは(クリックで拡大)

法令遵守から社会的要請への広がり

厚生労働省の資料によると、コンプライアンスの本質は、社会的要請を正確に把握してこれに応じた行動をとることであるとされています 。現代では、法律の遵守はもちろんのこと、社内規定や就業規則の守秘、さらには企業倫理や社会規範、公序良俗に反しない行動をとることが強く求められています 。具体的には、以下の3つの要素が重要です 。

遵守すべき規範 具体的な内容と定義
1. 法律遵守 労働基準法や労働安全衛生法、個人情報保護法などの国家・地域の法律に従うこと。
2. 内部規定の遵守 自社が定めた就業規則や職務規定、業務マニュアルに則って業務を遂行すること。
3. 倫理規範の遵守 贈収賄の禁止や公正な取引、人権尊重など、社会人・組織人として求められる道徳的原則を守ること。

不祥事が発生した際、たとえ形式的に法律を犯していなくても、社会的な倫理に反していると判断されれば、企業の信頼は大きく損なわれます 。そのため、人事労務担当者は、法律の行間にある社会的な期待を読み解く視点が重要となります。

厚生労働省の指針に基づく人事労務コンプライアンス

人事労務分野におけるコンプライアンスは、従業員の権利を保護し、安全で健康的な労働環境を提供することを目的としています 。厚生労働省が所管する領域では、近年の法改正により事業主の義務が強化されています。

労働基準法と適正な雇用管理

企業運営の土台となるのが、労働基準法の遵守です。適切な労働時間の管理、賃金の支払い、休暇の付与は、従業員のウェルビーイングに直結します。労働時間管理において、36協定の遵守や長時間労働の抑制は、安全配慮義務の観点からも不可欠です。また、2020年以降、同一労働同一賃金の原則が導入され、正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇格差の解消が義務付けられました。これにより、時給差が縮小するなどの効果が報告されており、公正な評価と処遇が組織の透明性を担保します。

ハラスメント防止措置の義務化への対応

現在、すべての企業において、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置を講じることが義務付けられています 。厚生労働省の指針では、以下の措置が事業主に求められています。

措置の区分 具体的な内容
方針の明確化 ハラスメントを行ってはならない旨を周知し、就業規則に懲戒規定を明記する。
相談体制の整備 相談窓口をあらかじめ定め、担当者が適切に対応できるようにする。
事後の迅速な対応 事実関係を正確に確認し、被害者への配慮と行為者への厳正な対処を行う。
プライバシー保護 相談者や行為者のプライバシーを守り、相談を理由とした不利益扱いを禁止する。

また、近年では顧客等からの著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策も、事業主の管理責任として重要視されています 。

健康経営と労働者の健康保持増進

経済産業省が推進する健康経営においても、コンプライアンスは最低限の基盤として位置づけられています 。また、健康経営優良法人の認定を受けるためには、以下の法的義務を果たしていることが前提条件となります。

  • 定期健康診断の実施と受診率100パーセントの維持
  • 従業員50人以上の事業場におけるストレスチェックの適切な実施
  • 産業医や衛生管理者の選任、衛生委員会の定期開催
  • 適切な労働時間管理と36協定の遵守

これらの項目に不備がある場合、他の健康増進施策が充実していても認定対象外となるため、注意が必要です 。労働者のメンタルヘルス不調による休業・退職者が増加傾向にある中で、予防的な健康管理体制の構築は経営リスクの回避に直結します 。

総務省・消費者庁が管轄する公益通報者保護制度

組織の不祥事を早期に発見し、自浄作用を働かせるための仕組みが公益通報者保護法に基づく内部通報制度です。この分野は消費者庁が所管していますが、行政機関全般の規律は総務省が関与しています 。

改正公益通報者保護法のポイントと体制整備

2022年施行の改正公益通報者保護法により、常時使用する労働者数が300人を超える事業者に対し、内部通報に適切に対応するための体制整備が義務化されました 。300人以下の事業者は努力義務ですが、通報者への不利益扱いの禁止規定は全事業者に適用されます。

体制整備における主要なポイントは以下の通りです。

重要項目 具体的な実施内容と法的義務
1. 従事者の指定 通報の受付・調査を主体的に行う公益通報対応業務従事者を定める。
2. 守秘義務 従事者には、通報者を特定できる情報の漏洩を禁じる法的守秘義務が課され、違反には罰則があります。
3. 独立性の確保 経営トップや幹部が関与する事案でも適切に調査できるよう、窓口の独立性を確保する。
4. 不利益な扱いの禁止 通報を理由とした解雇、降格、減給などを厳格に禁止する。

組織の自浄作用を高める内部通報窓口の役割

内部通報制度が適切に運用されていない場合、従業員は行政機関や報道機関などの外部へ直接通報することを選択せざるを得なくなります。これは企業にとって、突然の行政処分や社会的な信用の失墜を招く大きなリスクとなります。

実効性のある窓口を設置し、匿名での通報も受け入れることで、隠れた不正を早期に把握し、自社で解決できる組織文化を醸成することが可能となります。消費者庁が公開している内部通報制度導入支援キットなどを活用し、規程の策定や周知を行うことが推奨されます 。

参考情報:内部通報制度導入支援キット(消費者庁)

デジタル庁が推進するデータガバナンス

デジタル化の進展に伴い、情報の取り扱いに関するコンプライアンスは新たな局面を迎えています。デジタル庁は、Society 5.0の実現に向けて、データガバナンス・ガイドラインを策定し、企業にデータ活用の指針を示しています。

デジタル時代に求められる情報管理と倫理

データガバナンスとは、企業の重要な資産であるデータを戦略的に管理・活用するための仕組みやルールのことです。デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革するDXを推進する上で、データの品質、安全性、透明性を保つことは不可欠な経営課題です。

2024年4月の個人情報保護法関連の改正により、規制対象が個人データから一部の個人情報へと拡大されるなど、保護措置の重要性はさらに高まっています。人事労務部門においても、従業員の機密性の高い個人情報を扱うため、利用目的の特定や安全管理措置の徹底が求められます。

サイバーセキュリティと経営者の責任

デジタル庁および経済産業省のデジタルガバナンス・コードでは、サイバーセキュリティをIT部門の問題ではなく、経営継続を左右する経営リスクとして位置づけています 。経営者に求められる視点は以下の通りです。

重要項目 具体的な実施内容と経営の役割
経営層のリーダーシップ サイバーセキュリティリスクを重要課題として認識し、リーダーシップを発揮すること。
体制とリソースの確保 セキュリティ責任者(CISO等)の任命と、必要な予算・人材を確保すること。
セキュリティ・バイ・デザイン システム開発の初期段階からセキュリティを考慮するセキュリティ・バイ・デザインを導入すること。
先端技術への対応 生成AIなどの先端技術の活用にあたり、アジャイルな見直しを逐次行うこと。

また、テレワークの普及により、BYOD(個人所有デバイスの利用)や公衆Wi-Fiの利用に関するルール整備など、従業員へのセキュリティ教育もコンプライアンスの重要な一部となっています。

コンプライアンスに関するよくある質問

Q1. コンプライアンスとは、単に法律を守ることと考えてよいのでしょうか?
いいえ、現代のコンプライアンスはより広い範囲を指します。具体的には法律だけでなく、社内規定、社会倫理、道徳、そして社会的な要請に従うことが含まれます。法的にはグレーだが社会的に見て不適切、という行動もコンプライアンス違反とみなされ、企業のブランドを大きく損なう原因となります。
Q2. 従業員によるSNSへの不適切な投稿は、会社のコンプライアンス責任になりますか?
従業員がプライベートで行った投稿であっても、会社名が特定されたり、業務上の秘密や顧客情報の漏洩、差別的な発言が含まれたりする場合、会社は管理責任を問われます。投稿による炎上が企業の社会的信用を失墜させるため、企業にはSNS利用に関するガイドラインの策定と、定期的なリテラシー教育を実施する配慮義務があると考えられています。
Q3. 改正公益通報者保護法において、内部通報窓口の設置が必要な企業の範囲は?
従業員数301人以上の企業には、内部通報に適切に対応するための体制整備(窓口の設置や担当者の選任など)が法的義務となっています。300人以下の企業は努力義務です。特に、通報者が誰であるかを特定されないよう秘匿性を確保することや、通報を理由とした解雇、降格などの不利益な取り扱いを厳格に禁止することが求められます。
Q4. ハラスメント対策は、コンプライアンスの一部とみなされますか?
はい、極めて重要な要素です。パワハラ防止法により、すべての企業に対して防止策を講じることが義務付けられています。ハラスメントを放置することは、労働安全衛生法や労働基準法違反だけでなく、安全配慮義務違反としての損害賠償請求や組織の生産性低下を招くコンプライアンス上の重大な欠陥とみなされます。
Q5. 取引先との契約を口頭やメールだけで済ませることは問題ありますか?
コンプライアンス上のリスクが非常に高いです。特に下請法の対象となる取引の場合、発注書面の交付は法的義務であり、これを怠ると行政指導の対象となります。また、トラブル発生時の証拠が不足し、結果的に自社を守れなくなるため、電子契約等を利用して確実に書面化とログ保存を行うことが現代のガバナンスの標準です。
Q6. 接待や贈答品の受け渡しについて、コンプライアンス違反とならない基準はありますか?
多くの企業では社会通念上、一般的とされる範囲を基準にしています。公務員に対する接待や贈答は贈収賄として厳格に禁止されていますが、民間同士であっても過度な接待が公正な取引を歪める場合は背任罪等に問われる恐れがあります。社内で一回あたりの上限金額や事前承認制をルール化し、透明性を確保することが不可欠です。
Q7. コンプライアンス意識を組織に定着させるために、最も効果的な方法は何ですか?
経営トップがコンプライアンスを何よりも優先するという姿勢、トーンアットザトップを繰り返し発信することです。現場が数値目標達成のためなら多少の不正は仕方ないという空気を感じ取ると、どんなに立派なマニュアルも形骸化します。定期的なアンケートで現場の予兆をキャッチし、風通しの良い組織文化を築くことが最大の防御となります。

コンプライアンスは、単にリスクを回避するための守りの活動ではありません。厚生労働省が推進する適正な労働環境の整備、消費者庁が求める透明性の高い通報制度、そしてデジタル庁が描く健全なデータ活用。これらを統合的に実践することで、組織の自浄作用が高まり、従業員が安心して働ける環境が整います。当解説記事で紹介した各行政機関の指針を参考に、現在の自社の体制を点検してみてください。法令遵守を基盤とした経営は、顧客、取引先、そして従業員からの信頼を深め、結果として企業の長期的な価値向上と持続可能な成長をもたらすことにつながります。

多くのセンシティブな情報を取り扱われる人事労務担当者や産業保健スタッフの皆様が、日々の業務を通じてコンプライアンス意識を組織の隅々にまで浸透させていくことが、貴社におけるより良いコンプライアンス体制の形成に寄与する第一歩となります。