36協定の締結や就業規則の意見書の提出の際に「従業員代表(過半数代表者)」を選ぶ必要があることはわかっていても、要件・正しい選出方法・選出が無効になるケースについて、正確に把握できていないという人事労務担当者の方は少なくないのではないでしょうか。選出方法が適切でなければ36協定や就業規則の効力そのものが失われるリスクがあります。当解説記事では、従業員代表の定義・法的根拠・3つの要件・適切な選出方法・役割・不利益取扱いの禁止・よくある無効事例まで、労働基準法施行規則第6条の2をもとに実務に役立つ形で解説します。
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従業員代表(過半数代表者)とは
従業員代表(過半数代表者)とは、事業場において労働者の過半数を代表する者のことです。事業場に労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がない場合に、使用者と労使協定を締結したり、就業規則の作成・変更の際に意見を述べたりする役割を担います。
なお「従業員代表」「労働者代表」という表現は法令上の正式な名称ではなく、「労働者の過半数を代表する者」(労働基準法第36条等)を指す通称です。実務上は「従業員代表」「労働者代表」「過半数代表者」といった呼び方が混在していますが、いずれも同じ意味として使用されています。
従業員代表の法的根拠
過半数代表者に関する主な法的根拠は、労働基準法第36条・第90条および労働基準法施行規則第6条の2です。
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労働基準法第36条(時間外・休日労働に関する協定:36協定)
事業場に過半数組合がある場合はその組合と、ない場合は過半数代表者と書面による協定(36協定)を締結することが義務づけられています。 -
労働基準法第90条(就業規則の作成・変更)
就業規則を作成・変更する際に過半数組合または過半数代表者の意見聴取が義務づけられています。
そして、労働基準法施行規則第6条の2は、過半数代表者の要件・選出方法・使用者の配慮義務・不利益取扱いの禁止を具体的に規定しており、過半数代表者制度の実質的な根拠規定となっています。
過半数組合がある場合との違い
事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)が存在する場合は、労使協定の相手方はその労働組合です。過半数代表者を選出する必要はありません。過半数代表者の選出が必要となるのは、過半数組合が存在しない事業場に限られます。
なお、ある組合が存在していても、その組合員が事業場の労働者の過半数に満たない場合は「過半数組合」とはいえないため、過半数代表者の選出が必要です。
過半数代表者の3つの要件
過半数代表者として選出される者は、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります(労働基準法施行規則第6条の2)。いずれか一つでも欠ける場合は、選出が無効となり、締結した協定も無効となるリスクがあります。
| 過半数代表者の要件 | 具体的な要件定義および実務上の判断基準の詳細 |
|---|---|
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要件①: 管理監督者でないこと |
労働基準法第41条第2号に規定する「管理監督者」は過半数代表者になることができません。管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であり、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されない者です。 この要件の趣旨は、会社側と一体的な立場にある管理監督者が過半数代表者となれば、実質的に使用者が協定の相手方を兼ねることになり、労働者保護の観点から問題があるためです。なお「管理監督者」の範囲については名称だけでなく実態で判断されるため、役職名が「部長」「課長」であっても、実態として管理監督者に該当しない場合はなることができます。逆に名称が「チームリーダー」であっても実態が管理監督者であれば要件を満たしません。 |
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要件②: 使用者の意向に基づいて選出されたものでないこと |
過半数代表者は、使用者(会社)の意向によって指名・任命された者であってはなりません(労働基準法施行規則第6条の2第1項第2号)。選出は労働者の自由な意思に基づくものでなければならず、会社が特定の人物を「あなたが代表者をやってください」と指名することは要件違反となります。 この要件が設けられているのは、会社が都合のよい人物を代表者に据えて協定を締結するという形骸化を防ぐためです。たとえ指名された人物が管理監督者該当しない一般の労働者であっても、選出プロセスが使用者主導である場合は要件を満たしません。 |
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要件③: 協定等を締結する目的であることを明らかにしたうえで選出されたこと |
過半数代表者を選出する際は、何の目的(どの協定の締結のため、または就業規則の意見聴取のためなど)のために選出するかを、あらかじめ事業場のすべての労働者に明らかにする必要があります(労働基準法施行規則第6条の2第1項)。 目的を明らかにせずに選出した過半数代表者は、当該目的の協定等にのみ効力を持ちます。複数の協定に共通して使用できる「常設の代表者」として選出する場合は、その旨を明確にしたうえで選出することが必要です。 |
適切な選出方法
過半数代表者の選出方法については、労働基準法施行規則に「投票、挙手等の方法(第6条の2第1項)」により選出することが定められています。具体的にどの方法を使うかは自由ですが、「すべての労働者が参加できる民主的な手続き」であることが求められます。
選出に使える方法の例
投票(無記名・記名)として、用紙または電子的な投票システムを用いて選出する方法は、最も民主的で確実な選出方法として広く採用されています。挙手として、全員が参加できる場(朝礼・全体会議・オンライン会議等)での挙手による選出も認められています。候補者に対する信任投票として、立候補者または推薦された候補者について信任(賛否)を問う方法も有効です。電子メール・社内システムでの意思表明として、すべての労働者にメールや社内アンケートシステムを通じて候補者への賛否を確認する方法も、参加機会が保障されている場合は認められます。
選出手続きで必ず行うべきこと
適正な選出手続きとして実務上押さえておくべき主なポイントは以下のとおりです。
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全労働者に周知すること
正社員・パート・アルバイト・有期雇用労働者を含む事業場のすべての労働者に選出の目的・方法・候補者の情報を周知します。 -
目的を明示すること
何の協定のため・何の意見聴取のために選出するのかを明確に示します。 -
全員が参加できる機会の確保
勤務時間帯の違いによって参加できない労働者が生じないよう、複数の時間帯・方法で参加機会を確保します。 -
記録の保存
選出の日時・方法・参加者・結果を記録として残します。この記録が後の労働基準監督署の調査・争訟において適正な選出を証明する重要な証拠となります。
過半数代表者の主な役割
過半数代表者が関与する主な場面を整理します。労使協定の締結と就業規則の意見聴取が中心的な役割ですが、その他にも複数の場面で関与が求められます。
| 役割・場面 | 根拠法令 | 内容 |
|---|---|---|
| 36協定の締結 | 労働基準法第36条 | 時間外・休日労働に関する協定の締結当事者 |
| 就業規則の意見聴取 | 労働基準法第90条 | 就業規則の作成・変更時に意見を述べる |
| 賃金の口座外支払い協定 | 労働基準法第24条 | 賃金を通貨以外で支払う場合の協定締結 |
| 変形労働時間制の協定 | 労働基準法第32条の2等 | 1か月・1年単位の変形労働時間制の協定締結 |
| 育児・介護休業法の労使協定 | 育児介護休業法 | 育児・介護休業の適用除外等の協定締結 |
| フレックスタイム制の協定 | 労働基準法第32条の3 | 清算期間・標準労働時間等を定める協定締結 |
| 計画年休の協定 | 労働基準法第39条第6項 | 計画的付与を行う場合の協定締結 |
就業規則の意見聴取においては、過半数代表者は「賛成・反対」の意見を述べる役割であり、就業規則の内容を承認・否決する権限はありません。反対意見が記載された意見書を添付して届出することも法律上有効です(労働基準法第90条の趣旨)。
不利益取扱いの禁止と使用者の配慮義務
過半数代表者の活動を実質的に保護するために、法律は使用者に対して不利益取扱いの禁止と必要な配慮を義務づけています。
不利益取扱いの禁止
労働基準法施行規則第6条の2第3項は、使用者に対して以下の事由を理由とした不利益取扱いを禁止しています。
労働者が過半数代表者であること、または過半数代表者になろうとしたことを理由とした不利益取扱い、および過半数代表者として正当な行為をしたことを理由とした不利益取扱いの2つが禁止の対象です。
具体的に禁止される不利益取扱いの例としては、解雇・降格・賃金の引き下げ・不利益な配置転換・昇進・昇給上の差別などが挙げられます。代表者として会社の意向に沿わない意見を述べたり、労働者の立場から協定内容に異議を唱えたりしたことを理由として、人事上の不利益を与えることは明確に禁止されています。
使用者の配慮義務
労働基準法施行規則第6条の2第4項は、使用者が過半数代表者の活動を支援するための「必要な配慮」を行う義務を定めています。具体的な配慮の例として厚生労働省が示しているものとしては、労働者の意見集約などを行う際に必要となる事務機器(イントラネットや社内メールを含む)や事務スペースの提供、意見集約や協定内容の確認に必要な時間の確保などがあります。
過半数代表者が使用者側との対等な関係のもとで協定等に関する事務を円滑に遂行できるよう、環境を整えることが使用者に求められています。
選出が無効になる代表的なケース
過半数代表者の選出が無効となると、締結した36協定も無効となり、時間外労働命令が労働基準法違反となるリスクがあります。よくある無効事例を確認しておきましょう。
| 従業員代表選出が無効となる事例 | 具体的な無効理由・リスク内容の詳細 |
|---|---|
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ケース①: 会社が一方的に指名した |
最も多い無効事例のひとつが、会社側が特定の従業員を「代表者をやってもらいます」と一方的に指名するケースです。選出方法の要件(使用者の意向に基づかない選出)を満たさないため無効となります。選出の実態が「会社から指名された」ものである限り、形式上は投票を行っていても無効と判断されることがあります。 |
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ケース②: 親睦会の幹事を自動的に代表者とした |
「うちの会社は○○親睦会の幹事が自動的に従業員代表になっている」という運用は無効です。最高裁判所も「いわゆる親睦会の代表者は、適正な手続きで選出された『労働者の過半数を代表する者』とはいえない」と判示しており(トーコロ事件:最二小判平成13年6月22日)、こうした運用に基づいて締結した36協定は無効とされるリスクがあります。 |
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ケース③: 管理監督者が代表者となった |
実態として管理監督者に該当する者(部長・課長等)が過半数代表者となっているケースは要件①を満たさず無効です。役職名だけでなく実態で判断されるため、「実態として経営者と一体的な立場にある」管理監督者が代表者となっている場合は見直しが必要です。 |
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ケース④: 全労働者が参加しない選出手続きを行った |
正社員のみで選出し、パートタイム・アルバイトを選出手続きから除外したケースは、「過半数を代表する」という要件を満たしていない可能性があります。事業場で働くすべての労働者(派遣労働者を除く)が選出手続きに参加できる機会を持つことが必要です。 |
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ケース⑤: 選出の目的を明らかにしなかった |
「従業員代表者を選びます」とだけ伝えて、何の協定のための選出かを従業員に周知せずに選出したケースは、要件③を満たさず無効となる可能性があります。36協定の締結のためなのか、就業規則の意見聴取のためなのかを明確にした周知が必要です。 |
過半数代表者の任期・兼任・複数選出
過半数代表者の任期・兼任・複数選出について整理します。
| 実務上の運用項目 | 法令上の解釈および実務対応の詳細 |
|---|---|
| 過半数代表者の任期 |
過半数代表者の任期については、法令上の定めはありません。 36協定の有効期間(原則1年)に合わせて毎年選出し直す事業場が多くありますが、就業規則の意見聴取専用に選出する場合は都度選出する形も一般的です。実務上は「1年ごとに選出・更新する」という形が最もトラブルが少ないとされています。 |
| 36協定と就業規則の意見書での同一代表者の使用 |
36協定と就業規則の意見書の両方に同一の過半数代表者を使用することは可能です。 ただしそれぞれの目的を明確にしたうえで選出した場合に限ります。36協定の締結のために選出した代表者を、選出目的にない就業規則の意見聴取にも使用することは適切ではありません。目的ごとに選出し直すか、「すべての労使協定・就業規則意見聴取を目的とする」と明示したうえで選出することが必要です。 |
| 複数の過半数代表者の同時選出 | 複数の過半数代表者を同時に選出することは法令上禁止されていませんが、複数人がいる場合は誰が最終的な意思決定者(署名者)となるかを明確にする必要があります。実務上は1名を選出するケースがほとんどです。 |
過半数代表者に関するよくある質問
選出プロセスの形骸化を防ぐために
過半数代表者制度は、会社と従業員が対等な立場で労働条件を決める民主的な仕組みの根幹です。しかし実態として「会社が選んだ人が代表者になっている」「親睦会の幹事が自動的に代表者になっている」「毎年同じ人が何の手続きもなく続けている」という形骸化が多くの事業場で見られます。
この形骸化は36協定を無効にし、就業規則の効力を失わせる法的リスクに直結します。当解説記事でご紹介した3つの要件(管理監督者でないこと・使用者の意向に基づかないこと・目的を明示したうえで選出されること)と適正な選出方法を改めて確認し、毎年の36協定更新のタイミングで選出手続きを見直すことをお勧めします。選出の記録(周知の方法・日時・参加者・結果)を必ず保存しておくことが、後のトラブル・監督署の調査への備えとなります。
従業員代表(過半数代表者)に関する主要情報へのクイック参照表(リンク集)
| カテゴリ | タイトル(リンク) |
|---|---|
| 36協定 | 時間外労働の上限規制・36協定について(厚生労働省) |
| 就業規則 | モデル就業規則について(厚生労働省) |
| 判例 | トーコロ事件(全国労働基準関係団体連合会) |

