事業場内メンタルヘルス推進担当者とは?役割・選任のポイントと実務の進め方

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構
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メンタルヘルス推進担当者に選任されたけれど、具体的に何をすればいいのかわからない、あるいは自社にこうした担当者を置く必要があるのかを確認したい、そのような疑問を抱えていらっしゃる人事労務担当者や産業保健スタッフの方は少なくないのではないでしょうか。当解説記事では、厚生労働省が示す「労働者の心の健康の保持増進のための指針」をもとに、事業場内メンタルヘルス推進担当者の定義・選任要件・主な役割・実務のポイントまでをわかりやすく整理します。職場のメンタルヘルス対策を前進させるための参考にしていただければ幸いです。


メンタルヘルス推進担当者とは何か

事業場内メンタルヘルス推進担当者とは、産業医等の助言・指導等を得ながら、事業場のメンタルヘルスケアの推進の実務を担当する者として、厚生労働省の指針に位置づけられた役職です。

大切なのは、この担当者が「教育や相談そのものを直接担当することまでは求められていない」という点です。担当者に期待されているのは、事業場内で行われるメンタルヘルス対策が円滑に推進されるよう、関係者の間を調整・調整するコーディネーターとしての機能です。実際の教育・相談対応は産業医、衛生管理者、人事労務担当者などが担い、推進担当者はそれらがうまく機能するよう下支えする役割を果たします。

事業場内メンタルヘルス推進担当者の役割や選任方法など総合的な説明画像
事業場内メンタルヘルス推進担当者とは(クリックで拡大)

制度の根拠となる厚生労働省の指針

事業場内メンタルヘルス推進担当者の選任は、労働安全衛生法第70条の2第1項の規定に基づく「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月策定、平成27年11月改正)により求められています。

この指針は、4つのケア(後述)の中の「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」に関して事業者が講じる措置のひとつとして、メンタルヘルス推進担当者の選任を明記しています。選任は義務ではなく努力義務とされていますが、すべての事業場で選任されることが望ましいとされています。

メンタルヘルス推進担当者の選任が求められる背景

働く人を取り巻く環境は大きく変化しています。就業形態の多様化、IT化の進展、成果主義の浸透など、職場環境は複雑になり、多くの労働者がストレスを抱えやすい状況が続いています。厚生労働省の令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」では、仕事や職業生活に関することで強い不安・悩み・ストレスを感じている労働者の割合が82.2%に達しています。また、精神障害等に係る労災補償の請求件数・認定件数は年々増加しており、職場のメンタルヘルス対策は今や経営上の重要課題のひとつといえます。

一方、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場は全体の63.4%(同調査)にとどまっており、特に小規模事業場では取り組み率が低いのが現状です。

こうした状況のなか、すべての職場でメンタルヘルスの取り組みが円滑に進められるよう、推進担当者の配置が強く望まれています。

事業場規模 取り組み率
1,000人以上 99.7%
500~999人 99.3%
300~499人 98.2%
100~299人 96.8%
50~99人 87.2%
30~49人 73.1%
10~29人 55.7%
全体 63.4%

出典:令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」(厚生労働省)


誰が選任されるのか:対象となる人材

メンタルヘルス推進担当者の選任に際して、法令上の資格要件はありません。ただし、指針ではその選任にあたって望ましい人材について一定の目安が示されています。

大規模事業場の場合

衛生管理者や常勤の保健師等から選任することが指針で勧められています。これらの職種はもともと職場の安全衛生に関わる実務を担っており、メンタルヘルス対策のコーディネート役として適任と考えられているためです。

小規模事業場(50人未満)の場合

50人未満の事業場では、産業医や保健師・看護師が在籍していないケースも多くあります。こうした場合には、人事労務管理スタッフを充てることも想定されています。また、衛生推進者または安全衛生推進者の選任義務がある10人以上49人以下の事業場では、これらの担当者がメンタルヘルス推進担当者を兼務することが望ましいとされています。

事業場の状況 推奨される選任対象者
衛生管理者・常勤保健師等がいる場合 衛生管理者、常勤の保健師等
保健師・看護師等が不在の場合 人事労務管理スタッフ
10~49人規模の事業場 衛生推進者または安全衛生推進者を兼務

4つのケアにおける位置づけ

厚生労働省の指針では、職場におけるメンタルヘルスケアを効果的に進めるために、4つのケアを組み合わせて推進することが求められています。

ケアの種類 主な担い手 内容
セルフケア 労働者本人 自らのストレスへの気づきと予防・対処
ラインによるケア 管理監督者 職場環境の改善・部下の相談対応
事業場内産業保健スタッフ等によるケア 産業医・衛生管理者・保健師・メンタルヘルス推進担当者等 メンタルヘルス対策の企画立案・労働者や管理監督者の支援
事業場外資源によるケア 外部機関・専門家 社外の専門知識・機関の活用

メンタルヘルス推進担当者は、この4つのケアのうち「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」の担い手のひとりとして位置づけられています。担当者は、本人・管理監督者・人事労務スタッフ・産業保健スタッフの間の連携や調整を行い、必要に応じて事業場外資源に助言を求めるための窓口機能を果たします。

メンタルヘルス推進担当者の4つの主な役割

厚生労働省の職場のあんぜんサイトでは、事業場内メンタルヘルス推進担当者の主な役割として以下の4点が挙げられています。

項目・役割・予防段階 具体的な内容と実務の要諦
役割1:
心の健康づくり計画の
策定・周知・実行管理
組織的・計画的に進めるための基盤づくりを担います。
  • 衛生委員会等の場で計画の立案・審議を実務的に支援。
  • 策定後の労働者への周知、および実行状況の把握。
  • 計画内容:目的・目標・体制・具体的施策・評価方法などを盛り込み、机上の空論とせず実際の取り組みにつなげる。
役割2:
教育研修の計画・立案・
実施・評価
セルフケアやラインケアを職場に根づかせるための教育を主導します。
  • 研修の講師を自ら行う必要はなく、産業保健スタッフや外部機関との連携を調整することが主な役割。
  • 主なテーマ:ストレスの基礎知識、セルフケア方法、ラインケア(部下の変化への気づき)のポイント、相談窓口の活用方法など。
役割3:
事業場内の相談窓口
不調の早期発見と適切な対応のための「橋渡し」を担います。
  • 実際の対応は産業医・保健師・産業カウンセラー等の専門職が担い、担当者は労働者が窓口にアクセスできるよう情報提供と調整を行う。
  • 相談者の個人情報の保護に最大限の配慮が求められる。
役割4:
事業場外資源との連携窓口
社内で対応しきれない問題に対し、外部の専門的な支援を引き出す窓口となります。
  • 活用リソース:産業保健総合支援センター(さんぽセンター)、地域産業保健センター、EAP(従業員支援プログラム)機関、医療機関など。

担当者が担う実務の具体的なポイント

メンタルヘルス対策は、予防の段階に応じて一次・二次・三次の3段階で捉えることが重要です。

一次予防・二次予防・三次予防を意識した取り組み

推進担当者は、以下のメンタルヘルス予防の三段階に関する対策がバランスよく機能するよう、関係者と連携しながら全体を調整することが求められます。特に三次予防にあたる職場復帰支援については、厚生労働省が「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表しており、このような資料を活用して支援の仕組みを整えることが有効です。

予防の段階 目的 主な取り組み例
一次予防 メンタルヘルス不調の未然防止 ストレスチェックの実施、教育研修、職場環境改善
二次予防 早期発見・早期対応 相談窓口の整備、管理監督者による早期気づきの支援
三次予防 職場復帰支援・再発防止 職場復帰支援計画の策定、復帰後のフォローアップ

産業医等との連携・協働

メンタルヘルス推進担当者は「産業医等の助言・指導等を得ながら実務を担当する」と指針に明記されているとおり、産業医との連携が活動の基盤となります。担当者が単独で動くのではなく、産業医の専門的知見を取り入れながら計画を立案し、実施する体制が重要です。

産業医との連携においては、定期的な情報共有の機会を設けること、職場巡視の結果やストレスチェックの集団分析結果を共有すること、メンタルヘルス不調者への対応方針を協議することなどが有効です。保健師等が在籍している事業場では、保健師との連携も欠かせません。

個人情報の保護への配慮

メンタルヘルスに関する情報は、労働者にとって非常にデリケートな個人情報です。心の健康問題を抱える労働者に対して、健康問題以外の観点から評価が行われる傾向があるという現実を踏まえれば、情報の取り扱いには細心の注意が必要です。

指針でも「健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に留意することが重要」と明記されています。相談内容や健康情報が本人の同意なく人事担当者や管理職に伝わることがないよう、情報の管理ルールを明確にしておくことが、担当者への信頼を高め、相談しやすい職場環境の構築にもつながります。

担当者を育成するための研修・学習リソース

メンタルヘルス推進担当者として活動するにあたり、基本的な知識と実践スキルを身につけることが大切です。以下に、活用できる主な研修・学習リソースをご紹介します。

  • 中央労働災害防止協会(中災防)が実施する「事業場内メンタルヘルス推進担当者養成研修」は、厚生労働省が定めた指針に基づいたカリキュラムで、心の健康づくり計画の策定、職場環境の改善、職場復帰支援などメンタルヘルス対策に必要な知識を包括的に学べる研修です。人事労務管理スタッフや衛生管理者にも最適な内容となっており、全国各地で開催されています。
  • 厚生労働省が運営する「こころの耳」(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)では、事業者・産業保健スタッフ向けのeラーニングコンテンツや研修用教材が無料で提供されています。セルフケア・ラインケア・ストレスチェックの活用方法など、目的に応じた内容を自分のペースで学ぶことができます。
  • 独立行政法人労働者健康安全機構が全国に設置している産業保健総合支援センター(さんぽセンター)では、メンタルヘルス対策に関する個別相談や事業場への訪問支援を無料で受けることができます。何から手をつければよいかわからない段階から相談できる点が、特に中小事業場の担当者にとって心強いリソースです。

事業場内メンタルヘルス推進担当者に関するよくある質問(Q&A)

Q1. メンタルヘルス推進担当者の選任は義務ですか?
義務ではなく努力義務です。ただし、厚生労働省の指針ではすべての事業場で選任されることが望ましいとされており、規模に関わらず選任を検討することが推奨されています。保健師や看護師が在籍しない小規模事業場では、人事労務管理スタッフや衛生推進者を充てることも想定されています。
Q2. メンタルヘルス推進担当者と衛生管理者は兼務できますか?
可能です。指針では衛生管理者がメンタルヘルス推進担当者として選任されることが勧められており、実務上も兼務しているケースは多くあります。ただし、兼務により担当者の負荷が過大にならないよう、業務量の調整や支援体制の整備が必要です。
Q3. 担当者は相談対応や教育研修を直接行わなければなりませんか?
直接担当することまでは求められていません。厚生労働省の指針では、担当者の役割はメンタルヘルス対策がスムーズに推進されるよう調整する機能とされています。教育や相談対応は産業医、保健師、産業カウンセラーなどが行い、担当者はそれらが機能するよう調整、支援することが主な役割です。
Q4. 心の健康づくり計画には何を盛り込めばよいですか?
目的、目標、実施体制、具体的な取り組み内容、評価方法を盛り込むことが一般的です。具体的な取り組みには教育研修、相談窓口の整備、職場環境改善、職場復帰支援などが含まれます。衛生委員会等での調査審議を経て策定し、労働者へ周知することが求められます。
Q5. メンタルヘルス推進担当者の活動で活用できる外部支援機関はどこですか?
独立行政法人労働者健康安全機構が運営する産業保健総合支援センターでは、メンタルヘルス対策に関する相談や訪問支援を無料で提供しています。また、地域産業保健センターも中小事業場の事業主、労働者からの相談対応を行っています。厚生労働省のこころの耳ポータルサイトには電話相談窓口やeラーニングも整備されています。

メンタルヘルス推進担当者が職場を支えるために

職場のメンタルヘルス対策において、事業場内メンタルヘルス推進担当者は中核的な調整役を担う存在です。直接支援を行うのではなく、産業医・保健師・管理監督者・人事労務スタッフ・外部機関をつなぎ合わせ、メンタルヘルス対策が組織として機能するよう土台を整えること、それがこの役割の本質といえます。当解説記事でご紹介したように、担当者の主な役割は、心の健康づくり計画の策定・実行管理、教育研修の企画、相談窓口の整備・調整、外部資源との連携の4点です。これらを一度に完璧に整えようとする必要はありません。まず自事業場の現状と課題を把握し、取り組めるところから着実に進めていくことが大切です。

担当者一人の力には限界があります。産業医や産業保健総合支援センターなどの専門家に相談しながら進めることで、より実効性の高いメンタルヘルス対策が実現します。職場で働く一人ひとりが安心して力を発揮できる環境づくりに向けて、担当者として一歩ずつ歩みを進めていただければと思います。