産業保健師という職種について、選任義務があるのか、産業医とどう役割が違うのか、どのような仕事を担うのかについて、正確に把握できていないという人事労務担当者や産業保健スタッフの方も多いのではないでしょうか。当解説記事では、産業保健師の定義・資格要件・主な仕事内容・産業医や産業看護師との違い・守秘義務・産業保健チームにおける位置づけまでを、厚生労働省の情報をもとにわかりやすく解説します。産業保健師の選任・活用を検討する際のご参考にしていただければ幸いです。
産業保健師とは
産業保健師とは、企業や事業場において労働者の健康管理・保健指導に従事する保健師のことです。医療・保健に関する専門的な知識と国家資格を持ち、産業医や人事労務担当者と連携しながら、働く人々の心身の健康維持増進をサポートする専門職です。
保健師の定義と法的根拠
保健師は、保健師助産師看護師法第2条において「厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者」と定められた国家資格です。看護師が傷病者に対する療養上の世話や診療の補助を業とする職種であるのに対し、保健師は病気やけがの予防を目的とした保健指導を専門とする点が大きな特徴です。
また、同法第42条の3により、保健師には秘密を守る義務(守秘義務)が課されています。労働安全衛生法第105条と合わせて、業務上知り得た労働者の個人情報・健康情報を正当な理由なく開示することは禁じられています。
産業保健師の位置づけ
保健師が活動する領域は、活動する場所によって行政・産業・学校・病院の4つに大別されます。このうち民間企業や事業場で活動する保健師のことを産業保健師と呼びます。
厚生労働省の「産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集」(2019年3月)では、保健師について「事業場の産業保健活動の中で、事業場の労働者から気軽に相談できる身近な専門職であることが多く、専門性と合わせて産業保健活動の中で重要な役割を担っている」と位置づけられており、産業保健チームの中核的なメンバーとして期待されています。
令和2年(2020年)末時点の就業保健師数は55,595人(厚生労働省「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」)で、そのうち事業場(産業保健)で勤務している保健師は全体の約6.3%にあたる約3,500人前後にとどまっています。行政保健師が保健師全体の大部分を占める一方、産業保健師はまだ少なく、その需要はここ数年で高まり続けています。
産業保健師になるための資格要件
産業保健師として企業で活動するためには、看護師免許と保健師免許の2つの国家資格を取得していることが必要です。
まず看護師免許を取得するためには、大学や短期大学・看護師養成所等で所定の教育課程を修了し、看護師国家試験に合格したうえで厚生労働大臣の免許を受ける必要があります。次に保健師免許を取得するためには、看護師免許の取得を前提として、保健師の養成課程(大学や保健師養成所等)で地域看護学・公衆衛生学等の専門カリキュラムを修了し、保健師国家試験に合格することが求められます。
取得ルートは主に2つあります。看護師と保健師の統合カリキュラムを持つ大学・4年制看護専門学校を卒業して両方の国家試験を同時に受験するルートと、看護師資格取得後に保健師養成学校(1年課程)や看護系大学の保健師養成課程に進学してから保健師国家試験を受験するルートです。
| 資格 | 取得方法 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 看護師免許 | 看護師養成課程の修了+看護師国家試験合格+厚生労働大臣の免許登録 | 保健師助産師看護師法第5条・第21条 |
| 保健師免許 | 保健師養成課程の修了+保健師国家試験合格+厚生労働大臣の免許登録(看護師免許が前提) | 保健師助産師看護師法第2条・第19条 |
なお産業保健師として活動するうえでの追加的な公的資格要件はありませんが、産業カウンセラーや労働衛生コンサルタント等の資格を取得してキャリアアップを目指す産業保健師もいます。
保健師が活動する4つの領域
保健師は活動の場によって以下の4つの種類に分類されます。産業保健師の特徴を理解するうえで、他の領域との比較も参考になります。
| 種類 | 活動の場 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 産業保健師 | 民間企業・事業場の医務室・保健室等 | 企業の従業員(働く世代) |
| 行政保健師 | 保健所・市区町村・地域包括支援センター等 | 地域に住む乳幼児から高齢者まですべての住民 |
| 学校保健師(養護教諭) | 小中高等学校・専門学校等 | 児童・生徒・学生 |
| 病院保健師 | 病院・健診センター等 | 患者・健診受診者 |
産業保健師の特徴は、活動の対象が主に「働く世代の成人」に絞られている点です。生活習慣病・メンタルヘルス不調・過重労働による健康障害など、就労環境特有の健康課題に専門的に関わることができます。
産業保健師の主な仕事内容
産業保健師の仕事内容は、対個人へのアプローチから職場全体・組織への働きかけまで多岐にわたります。厚生労働省の実践的事例集でも示されているとおり、産業保健師は産業医の業務を補完しながら、より日常的・継続的な関わりのなかで従業員の健康を支える役割を担います。
| 産業保健師の主な業務 | 業務内容・役割の詳細 |
|---|---|
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健康診断の企画・実施・ 事後フォロー |
産業保健師は、定期健康診断の企画・受診勧奨・実施のコーディネート・結果の管理・労働者へのフィードバックまで、健康診断に関わる一連の業務を担います。健康診断の結果に基づき、保健指導が必要と判断された労働者に対しては、産業医と連携しながら保健指導を行うこともあります。 健康診断の事後措置においては、有所見者のリストアップ・受診勧奨・経過観察・産業医への情報共有など、医療機関への受診につなげるまでの橋渡し役として機能します。 |
| 保健指導・健康相談 |
労働安全衛生法第66条の7では、健康診断の結果に基づき健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対して、事業者は医師または保健師による保健指導を行うよう努めなければならないと定められており(努力義務)、産業保健師はこの保健指導の担い手として法律上明確に位置づけられています。 日常的な健康相談窓口としても、産業保健師は重要な役割を担います。生活習慣病・体調不良・睡眠問題から、職場ストレス・人間関係の悩みまで、従業員が気軽に相談できる身近な存在として機能します。 |
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メンタルヘルス対策・ ストレスチェックへの関与 |
ストレスチェックの実施者は、法令(労働安全衛生規則第52条の10)上、医師・保健師・研修を修了した看護師・研修を修了した精神保健福祉士に限定されています。産業保健師はこの実施者の要件を満たしており、ストレスチェックの実施から高ストレス者への初期対応・産業医への情報連携まで担うことができます。 メンタルヘルス対策においては、高ストレス者や気になる従業員への日常的な声がけ・面談、ストレスチェックの結果を集団分析して職場環境改善に活かすための産業医・人事労務担当者への情報提供なども産業保健師の重要な役割です。 |
| 過重労働対策 |
時間外・休日労働時間が月80時間を超えて面接指導を希望する労働者や、月100時間超の労働者への産業医面接指導の実施に向けて、産業保健師は対象者の把握・連絡・産業医への情報共有などの調整役を担います。 また面接指導の対象とはならない水準でも、過重労働の兆候が見られる従業員への声がけ・初期相談対応を産業保健師が担うことで、軽度の不調を早期に把握し、悪化を防ぐ一次予防・二次予防の機能を果たすことができます。 |
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職場復帰支援・ 治療と仕事の両立支援 |
メンタルヘルス不調や傷病による休職者が職場復帰する際に、産業保健師は産業医・人事労務担当者・主治医・当該労働者の間を調整するコーディネーターとして機能します。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に基づく職場復帰支援の各ステップを、産業保健師が具体的に推進する場面は多くあります。 また、がん・糖尿病・精神疾患などの治療を継続しながら就労する労働者への支援(治療と仕事の両立支援)においても、産業保健師は専門職として中核的な役割を担います。 |
| 健康教育・研修の企画・実施 |
産業保健師は、従業員向けの健康教育・研修の企画・実施も担います。セルフケア研修・ラインケア研修・メンタルヘルス研修・生活習慣病予防の食育セミナーなど、対象・目的に応じた内容を企画し、産業医や外部の専門家と連携して実施します。 組織全体の健康リテラシーを底上げすることで、健康問題が深刻化する前の一次予防に貢献することが、産業保健師による健康教育の重要な目的のひとつです。 |
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衛生委員会への参加・ 職場巡視への同行 |
産業保健師は、衛生委員会のメンバーとして参加し、職場の健康課題・ストレスチェックの集団分析結果・健康診断の有所見状況・職場環境の問題点などについて専門職の立場から意見を述べることができます。法令上の参加義務はありませんが、医療・保健の専門職として構成員に加わることは衛生委員会の活動の充実に貢献します。 また、産業医が義務として実施する職場巡視に同行し、労働衛生・保健の視点から職場環境の問題点を把握して改善案を提示する役割も果たします。 |
産業保健師と産業医の違い
産業保健師と産業医はともに従業員の健康管理を担う専門職ですが、選任義務・資格・業務内容に明確な違いがあります。
| 比較項目 | 産業医 | 産業保健師 |
|---|---|---|
| 法的な選任義務 | あり(常時50人以上の事業場に1人以上) | なし(任意) |
| 必要な資格 | 医師免許+厚生労働省令で定める要件(日本医師会認定産業医研修修了等) | 看護師免許+保健師免許 |
| 主な業務 | 医師としての専門的知見に基づく指導・助言・就業判定・職場巡視(法定業務) | 保健師としての立場からの保健指導・健康相談・各種調整(法定業務なし) |
| 勤務形態 | 嘱託(月1~2回)または専属(大規模事業場) | 常勤が一般的(特に大規模事業場)、または嘱託 |
|
ストレスチェック 実施者 |
なれる(実施者の要件を満たす) | なれる(実施者の要件を満たす) |
産業医の強みは、医師としての専門的知見に基づく就業判定・医学的助言・意見書の作成などにあります。一方、産業保健師の強みは、従業員との日常的な接点の多さと相談しやすい距離感にあります。嘱託産業医は月1〜2回の訪問が一般的であるため、産業医が把握できていない軽度の不調や変化を産業保健師が日常的にキャッチし、必要に応じて産業医に橋渡しするという役割分担が、産業保健チームとして機能する際の典型的な姿です。
産業保健師と産業看護師の違い
企業の産業保健分野では、産業保健師と産業看護師(産業看護職)が混在して活動しているケースも多くあります。両者の違いは「保健師免許の有無」にあります。
産業保健師は看護師免許と保健師免許の両方を有しており、保健師助産師看護師法上「保健指導に従事する者」として位置づけられています。産業看護師(産業看護職)は看護師免許のみを有しており、「療養上の世話や診療の補助を行う者」として定義されています。ただし実際の企業現場では両者の業務に大きな差はなく、企業の方針や体制に応じて産業保健師・産業看護師がともに労働者の健康管理・職場環境改善に携わるのが一般的です。
なお、ストレスチェックの実施者については産業保健師は無条件で要件を満たしますが、産業看護師(看護師)がストレスチェックの実施者となるためには、厚生労働省が定める研修の修了が必要です(ただし2015年11月30日以前に労働者の健康管理業務に3年以上従事した経験のある看護師は研修不要)。
産業保健師は衛生管理者を兼務できるか
産業保健師が衛生管理者を兼務できるかどうかは、人事労務担当者から多く寄せられる疑問のひとつです。
衛生管理者になるためには、第一種衛生管理者免許・第二種衛生管理者免許・医師・歯科医師・労働衛生コンサルタントなどの資格要件があります(労働安全衛生規則第10条)。保健師は第一種衛生管理者免許を受けることができるため(労働安全衛生規則第10条第1項第1号)、産業保健師が衛生管理者の要件を満たしたうえで兼務することは可能です。
ただし、兼務は業務量の増大につながるため、産業保健師本来の業務に支障が生じないよう業務負荷のバランスを十分に考慮することが重要です。また、産業保健師が衛生管理者を兼務する場合でも、週1回以上の作業場巡視義務など衛生管理者の法定業務は確実に果たす必要があります。
産業保健師の守秘義務
産業保健師が日常業務で取り扱う従業員の健康情報・面談内容・相談内容は、非常にプライベートな個人情報です。産業保健師には、保健師助産師看護師法第42条の3および労働安全衛生法第105条により、業務上知り得た情報の守秘義務が法律上課されています。このことは、企業の人事労務担当者や上司であっても、本人の同意なく産業保健師が面談内容や健康情報を開示することはできないことを意味します。企業として産業保健師を選任・活用するにあたっては、この守秘義務を尊重したうえで連携・コミュニケーションの方法を設計することが大切です。
産業保健師を選任・活用する際に企業として特に意識したい点として、産業保健師が情報を適切に管理できる信頼できる人物かどうかの見極め、健康情報の取り扱いルールの明文化と社内周知、産業保健師が独断で動かず産業医と連携して判断できる体制の整備が挙げられます。
産業保健チームにおける産業保健師の役割
厚生労働省は「産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集」(2019年3月)において、産業医・保健師・看護師・衛生管理者・人事労務担当者が連携する「産業保健チーム」での活動を推奨しています。
同事例集では、産業保健師(保健師)が担うことが期待される役割として以下が示されています。事業者は労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師もしくは保健師に労働者の健康管理等を行わせるように努めなければならないとされており(労働安全衛生法第13条の2)、保健師が産業医と並んで健康管理の担い手として法律上明確に位置づけられています。
| チーム内での役割 | 内容 |
|---|---|
| 日常的な健康管理の中核 | 産業医が訪問しない日も含め、常日頃から労働者の健康状態を把握し対応する |
| 調整・コーディネート | 産業医・人事労務担当者・主治医・外部機関の間の情報共有と連携調整 |
| 産業医業務の補完 | 医師資格が不要な法定外業務(保健指導・ストレスチェック実施・健診フォロー等)を担う |
| 情報収集・分析 | 健康診断データ・ストレスチェック集団分析結果等をもとに職場の健康課題を分析 |
| 健康経営の推進 | 健康教育・研修・キャンペーン等を通じて組織全体の健康文化の醸成に貢献 |
特に嘱託産業医を選任している中小〜中規模事業場では、産業医が訪問しない日の健康管理を産業保健師が担うことで、産業保健チームとしての実効性が大きく高まります。常勤の産業保健師が在籍するのは労働者数1,000人以上の大企業が中心ですが、近年は非常勤(嘱託)契約で複数の事業場を支援する産業保健師も増えており、中小規模の事業場でも産業保健師を活用しやすい環境が整いつつあります。
産業保健師に関するよくある質問
産業保健師が職場の健康づくりを支えるために
産業保健師は、医療・保健の専門職として従業員の健康維持増進を支える重要な存在です。当解説記事でご紹介したとおり、産業保健師は健康診断の企画・実施・フォローから、保健指導・健康相談・ストレスチェックの実施・過重労働対策・職場復帰支援・健康教育・衛生委員会への参加まで、産業保健活動の幅広い場面で活躍します。
選任義務こそありませんが、産業医が訪問しない日の日常的な健康管理・従業員への継続的な関わりという面では、産業保健師にしかできない役割があります。産業医・産業保健師・衛生管理者・人事労務担当者が連携する産業保健チームが機能することで、事業場全体の産業保健活動は格段に充実します。
産業保健師の活用を検討されている場合は、まず産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談するか、産業保健師の紹介サービスを活用することをおすすめします。自社の規模・体制・健康課題を整理したうえで、産業保健師にどのような役割を期待するかを明確にすることが、効果的な活用への第一歩となります。

