従業員の五月病を未然に防ぐ|人事労務が取り組める5つのポイント

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構

新年度となる慌ただしい4月が過ぎて大型連休が明ける5月は、毎年、多くの企業で従業員のメンタルヘルス不調が顕在化しやすい時期です。いわゆる「五月病」は、医学的には適応障害やうつ病と診断されるケースもあり、放置すれば離職や長期休職につながるリスクを含んでいます。

企業には安全配慮義務の観点からも、この時期の対策は人事労務担当者にとって避けては通れない重要な課題です。

本記事では、五月病のメカニズムや、五月病から従業員を未然に防ぐための人事労務が取り組むべき5つの具体的ポイントを詳しく解説します。この記事により、不調者の早期発見やサポートにつながると幸いです。

五月病とは?医学的な視点と徴候やサイン

「五月病」という言葉は一般的に広く知られていますが、実は正式な病名ではありません。多くの場合、4月の環境変化(入社、異動、昇進など)に伴う過度な緊張やストレスが、連休明けのタイミングで一気に疲れとして噴き出す状態を指します。

五月病の正体と主な症状

医学的には適応障害やうつ状態と診断されることが多いこの症状は、新しい環境に適応しようと過剰に努力した結果、エネルギーが枯渇してしまうことで起こります。厚生労働省のメンタルヘルス対策支援サイトこころの耳等でも、環境の変化によるストレスが心身の不調を引き起こすことが指摘されています。主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

社員の五月病の主な原因、症状やサイン、企業の対策といった説明画像
五月病の原因やサイン、企業ができる対策とは(クリックで拡大)

症状の分類 具体的な症状の例
精神的症状 やる気が出ない、不安感、焦燥感、集中力の低下、興味の喪失。
身体的症状 疲労感、不眠、食欲不振、頭痛、動悸、めまい。

企業には、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)があります。特にメンタルヘルス不調に関しては、厚生労働省が定める労働者の心の健康の保持増進のための指針に基づき、適切なケアを行うことが求められています。五月病によるパフォーマンス低下や欠勤を個人の問題として片付けるのではなく、組織的なリスク管理として捉えることが重要です。

五月病の疑いがある従業員に見られるサイン

カテゴリ 具体的な変化のポイント
勤怠の変化 遅刻、早退、欠勤が増える。特に月曜日の欠勤が目立つようになる。
仕事の質の変化 これまでになかったケアレスミスが増える。判断が遅くなる。締め切りを守れなくなる。
行動の変化 挨拶の声が小さくなる。離席が増える、または全く動かなくなる。過度な喫煙・飲酒。
表情・言動の変化 表情が暗い、または乏しい。口数が減る。自虐的な発言や「辞めたい」といった言葉が漏れる。
身なりの変化 服装がだらしなくなる。洗髪や髭剃りなど、清潔感への配慮が欠けるようになる。

五月病対策として人事労務が取り組める5つのポイント

五月病から従業員を守り、メンタルヘルス不調を未然に防ぐために、人事労務担当者が実践すべき5つの施策を解説します。

これらは厚生労働省が推奨する4つのケアの考え方に基づいていますので、新年度の産業保健活動の第一歩として合わせて実施できます。

1. ラインケアの実施と管理職研修の実施

「ラインケア」とは、直属の部下を持つ管理職が、部下の相談に応じたり、職場環境を改善したりすることです。五月病の兆候に最も早く気づけるのは現場の管理職です。

施策・アプローチ項目 具体的な実施内容と狙い
管理職向けメンタルヘルス研修 「いつもと違う」部下に気づくためのポイントや、適切な声かけの方法(傾聴)を教育します。
相談しやすい雰囲気作り 威圧的な態度を避け、部下が困りごとを早期に報告できる心理的安全性を構築するよう促します。

2. 労働時間の適切な管理と負荷の調整

一般的にどのような社員においても4月は業務量が増えやすく、疲労が蓄積しやすい時期です。長時間労働はメンタルヘルス悪化の最大の要因の一つです。

管理・調整項目 具体的な実施内容とマネジメントのポイント
残業時間のモニタリング

36協定の遵守はもちろん、特定の個人に業務が集中していないかチェックします。

年度末や4月は管理監督者も多忙となり、部下の労働時間管理についても疎かになりがちですので、特に注視するようにアナウンスを行いましょう。

業務の再配分 特に変化の多い新入社員や異動者に対して、過度なプレッシャーがかかっていないか1on1等を通じて確認し、必要に応じて業務量を調整します。様子がおかしいと感じたら人事労務部門に相談することもよいでしょう。
休暇取得の推奨 連休中や連休前後に適切に休みを取れているか確認し、心身のリカバリーを促します。

3. コミュニケーションの活性化と面談の実施

孤立感は五月病を悪化させます。特にリモートワークを導入している企業では、意識的なコミュニケーションが必要です。

施策・アプローチ項目 具体的な実施内容と狙い
1on1ミーティングの定期開催 業務の進捗だけでなく、「最近の体調はどうか」「困っていることはないか」といった個人のコンディションに焦点を当てた対話を行いましょう。
メンター制度の活用 新入社員に対して、直属の上司以外の先輩社員(メンター)がサポートする仕組みを整え、斜めの関係での相談先を作ります。

4. ストレスチェックや疲労蓄積度チェックの活用

ストレスチェックや疲労蓄積度チェックは、会社から配布して実施されるものと思われがちですが、セルフチェックにも有効です。

人事労務担当者や管理監督者が率先してこのようなツールを使用して、従業員自身のセルフチェック&セルフケアに取り組むように働きかけることも重要です。

チェック項目・目的 活用するツール・リソース
ストレスの反応や原因をチェックする ストレスチェック(厚生労働省こころの耳)
疲労蓄積の度合いや徴候をチェックする 疲労蓄積度チェック(厚生労働省こころの耳)

5. 相談窓口の周知と産業保健スタッフとの連携

社内の人間には相談しにくいという従業員のために、外部の相談窓口や専門家との連携を強化します。

施策・体制のポイント 具体的な実施内容と周知のポイント
産業医・産業看護職との連携 不調の兆候が見られる従業員に対し、産業医による面談をスムーズに設定できる体制を整えます。
EAP(従業員支援プログラム)の導入 外部の専門カウンセラーに24時間相談できる体制を周知します。
相談窓口のポスター・イントラ掲示 「困ったときはここ」という情報を、従業員がいつでも確認できるようにします。

もし不調者が出た場合の対応フロー

万が一、従業員に深刻な不調が見られた場合、人事労務担当者は迅速かつ適切な対応を行う必要があります。

  1. 状況確認とヒアリング
     本人、または上司から状況を確認します。この際、決めつけや説教は厳禁です。
  2. 産業医面談の設定
    専門的な見地から、業務継続の可否や配慮事項を判断してもらいます。
    なお、産業医選任のない50人未満の事業場では、お近くの地域産業保健センターへ相談しましょう。
  3. 就業上の措置の検討
    産業医の意見に基づき、残業禁止、配置転換といった就業上の配慮を検討し、決定します。
  4. プライバシーへの配慮
    メンタルヘルス情報に限らず、フィジカルな情報についても極めて機微な個人情報です。
    情報の取り扱い範囲を限定し、本人の不利益にならないよう細心の注意を払いましょう。

参考:職場におけるメンタルヘルスケアの4つのケア

ケアの種類 主体 内容
セルフケア 従業員本人 ストレスへの気づき、ストレス対処法の習得等
ラインによるケア 管理職 職場環境の把握・改善、相談への対応、復職支援
事業場内産業保健スタッフ等によるケア 産業医・衛生管理者 メンタルヘルス計画の策定、窓口設置、ラインケア支援等
事業場外資源によるケア 外部機関(EAP等) 専門的な相談、病院の紹介、最新情報の提供

五月病を未然に防ぎ、職場が良いコンディションで新年度に入るために

五月病は、新しい環境への適応というポジティブな挑戦の裏側で起こる、誰にでも起こりうる反応です。人事労務担当者の皆様に求められるのは、精神論で乗り切らせることではなく、仕組みとして従業員の心身を守る体制を整えることです。また、職場の皆さんが心身ともに良いコンディションで新年度のスタート時期を過ごすために、五月病の未然予防活動に取り組む場合は、経営層や人事担当役員に予め協力を得ておくとよいでしょう。

本記事で紹介した「ラインケアの徹底」「労働時間の管理」「コミュニケーションの活性化」「ストレスチェックの活用」「相談窓口の周知」という5つのポイントを軸に、まずは自社の現状を確認してみてください。

五月病に関するよくある質問

Q1. そもそも五月病とは医学的にどのような状態を指すのでしょうか?
五月病は正式な病名ではなく、主に4月の新年度の環境変化に適応しようと無理をした結果、ゴールデンウィーク明けに心身の不調が現れる状態を指します。医学的には適応障害や軽度のうつ状態と診断されることが一般的です。やる気が出ない、体がだるい、不安感が強いといった症状が特徴です。
Q2. どのようなサインに気をつければよいですか?変化を見分けるポイントは?
以下のようないつもと違う変化に注目してください。

- 勤怠の変化:遅刻や欠勤が増える、あるいは逆に不自然なほど長時間残業をしている。
- 行動の変化:ミスが増える、判断が遅くなる、返信が遅れる。
- 態度の変化:表情が暗い、口数が減る、あるいは不自然に明るく振る舞う。
- 身体の不調:眠れない、食欲がない、頭痛や腹痛が続くといった訴え。
Q3. 五月病は新入社員特有のものですか?中途採用者や異動者にも起こりますか?
新入社員に限ったことではありません。中途採用者や昇進、異動などで役割が変わったベテラン社員にも多く見られます。特に期待に応えなければという責任感が強い人ほど、環境のギャップに苦しみ、連休という休止期間をきっかけに糸が切れたように不調に陥るケースが目立ちます。
Q4. 部下から不調を相談された際、上司が避けるべき対応は何ですか?
以下の対応は状況を悪化させるリスクがあります。

- 精神論で励ます:気合が足りない、みんな通る道だといった言葉は、本人を追い詰めます。
- 安易にアドバイスする:趣味を見つけろといった助言より、まずは今の辛さを否定せずに聴くことが重要です。
- 不調を放置する:そのうち治るだろうと様子を見すぎると、重症化して長期休職に至る恐れがあります。
Q5. 企業として実施すべき具体的な予防策やフォロー体制は何ですか?
以下の3点を中心とした体制づくりを推奨します。

1. 定期的な1on1:連休前後に短時間でも対話の場を持ち、孤立を防ぐ。
2. 相談窓口の周知:産業医や外部EAPなど、上司以外に相談できるルートを確認させる。
3. セルフケア研修:ストレスの溜まり方に気づく方法や、睡眠、食事の重要性を教育する。
Q6. 産業医面談を勧めるべきタイミングや基準はありますか?
本人が眠れない、食欲がないなどの身体症状を訴えている場合や、不調が2週間以上続いて業務に支障が出ている場合は、速やかに産業医面談を勧めてください。また、管理職が自分だけでは手に負えないと感じた直感を信じることも、安全配慮義務を果たす上で重要です。
Q7. 最近よく聞く六月病とは、五月病と何が違うのでしょうか?
基本的なメカニズムは同じですが、近年は研修期間が長引いたり、6月の長雨や祝日のなさがストレスに拍車をかけ、6月に不調が表面化するケースが増えており、これを六月病と呼ぶことがあります。5月を乗り切ったからと安心せず、梅雨時期まで継続的なフォローを行うことが不可欠です。