社員の健康意識向上にベジファーストを。生活習慣病予防から健康経営へつなげる食の取り組み

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構
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社員の健康意識向上や生活習慣病予防に取り組みたいけれど、何から始めればよいかわからない——そのような悩みをお持ちの人事労務担当者や産業保健スタッフの方は多いのではないでしょうか。当解説記事では、今日からでも実践できる食習慣「ベジファースト」に着目し、その仕組みと生活習慣病予防への効果を、厚生労働省・農林水産省の資料をもとに解説します。さらに、農林水産省が推進する「野菜を食べようプロジェクト」や社内の健康知識底上げに活用できる資格情報など、企業の健康経営につなげるための具体的な手がかりもご紹介します。


日本人の野菜摂取量、まだ足りていない現実

厚生労働省が推進する「健康日本21」では、20歳以上の1人1日あたりの野菜摂取目標量を350g以上としています。これはカリウム・食物繊維・抗酸化ビタミン等の適量摂取が期待される量として設定されたものです。

しかし現実はどうでしょうか。令和5年の国民健康・栄養調査によると、野菜摂取量の平均値は256.0g(男性262.2g、女性250.6g)にとどまっており、目標の350gを大きく下回っています。農林水産省も「約70%の人が野菜不足の状態にある」と指摘しており、特に若い世代で摂取量が少ない傾向が顕著です。

区分 平均野菜摂取量 目標量との差
全体(20歳以上) 256.0g 約94g不足
男性 262.2g 約88g不足
女性 250.6g 約99g不足

出典:令和5年 国民健康・栄養調査(厚生労働省)

この「不足の約100g」は、決して小さな差ではありません。小鉢一皿分のほうれん草おひたし(約70〜80g相当)以上の量が、毎日不足し続けているという現実は、生活習慣病リスクの蓄積にも直結します。

職場という場で働く現役世代こそ、この野菜不足の影響を受けやすい層です。忙しい日々の中で外食や簡便食に頼りがちになり、気づかないうちに野菜摂取が後回しになってしまう方は多くいます。人事労務担当者や産業保健スタッフが職場でできる食の取り組みを考えるうえで、この現状はまず共有しておきたい土台となります。

ベジファーストとは何か

ベジファーストとは、食事の際に野菜(ベジタブル)を最初(ファースト)に食べることで、食後の血糖値の急激な上昇を抑えることを目的とした食事法です。

食べる順番が血糖値に与える影響

私たちが食事をすると血液中の糖(血糖)が上昇します。このとき、いきなりごはんやパンなどの糖質を食べると血糖値が急上昇しやすくなります。一方、野菜・きのこ・海藻などの食物繊維が豊富な食材を先に食べることで、糖の消化・吸収がゆるやかになり、食後血糖値の急上昇(血糖値スパイク)を抑えることが期待できます。食べる順番の基本的な考え方は、野菜などの食物繊維を含む副菜や汁物 → 肉・魚・卵・豆製品などのたんぱく質(主菜)→ ごはん・パン・麺などの糖質(主食)という流れです。

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ベジファーストを正しく理解する:2025年版食事摂取基準との関係

ここで一点、正確な情報をお伝えしておきたいことがあります。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、以前の版にあったベジファーストに関する特定の記述が削除されました。これは「効果がない」ということではありません。「野菜だけを先に食べればよい」という単純化された理解が広まり、本来の意図が伝わりにくくなったことを踏まえ、「野菜・肉・魚などの非炭水化物を先に食べ、炭水化物(主食)を後に食べる(カーボラスト)」という考え方全体に重きが置かれる方向にシフトしたためとされています。

したがって、ベジファーストは今も有効な習慣のひとつです。大切なのは「野菜をまず食べること」を入口として、食事全体のバランスや食べる順番への意識を高める習慣づくりと捉えることです。

ベジファーストが生活習慣病予防につながる理由

野菜に多く含まれる水溶性食物繊維は、胃腸内でゲル状になり、糖質の消化・吸収のスピードを遅らせる働きをします。これにより、食後の血糖値の急上昇が抑えられます。

食物繊維の働きと血糖値スパイクの抑制

野菜に多く含まれる水溶性食物繊維は、胃腸内でゲル状になり、糖質の消化・吸収のスピードを遅らせる働きをします。これにより、食後の血糖値の急上昇が抑えられます。

血糖値の急上昇(血糖値スパイク)が繰り返されると、血管の内壁が傷つきやすくなり、将来的な糖尿病や動脈硬化のリスクが高まることが指摘されています。ベジファーストによってこの血糖値スパイクをやわらげることは、糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防・進行抑制への一歩となります。

加えて、食物繊維には次のような複合的な健康効果も期待されています。

食物繊維の働き 期待される健康効果
糖質・脂質・コレステロールの吸収をゆるやかにする 血糖値・血中脂質の安定
腸内細菌のエサとなり腸内環境を整える 便通改善・免疫機能のサポート
咀嚼回数が増え満腹中枢が刺激される 食べ過ぎの抑制・肥満予防
食事のボリューム感が増す 糖質の過剰摂取を防ぐ

肥満・脂質異常症・高血圧への波及効果

生活習慣病は単独で発症するというより、肥満・高血糖・脂質異常症・高血圧が複合的に重なるケースが多く、これらをまとめてメタボリックシンドロームと呼ぶこともあります。

厚生労働省の栄養・食生活に関する基本方針でも、「生活習慣病の発症に栄養・食生活の関連がみられるものが多く、栄養対策を過剰栄養に焦点をあてたものへと転換を図ることが求められている」と示されています。野菜摂取の習慣づけは、エネルギー密度の低い食材を積極的にとることにつながり、肥満防止・脂質バランスの改善・血圧の安定にも寄与することが期待できます。

職場での健康意識向上に「食」が果たす役割

経済産業省が推進する健康経営では、「食生活の改善に向けた取り組み」が健康経営優良法人の認定評価における取り組み項目のひとつとして位置づけられています。食は、メンタルヘルスや運動とならび、企業が従業員の健康づくりに取り組むうえで欠かせない柱のひとつです。

健康経営と食生活改善の関係

従業員の食生活が改善されることは、肥満・生活習慣病の発症リスクを下げ、医療費の抑制、プレゼンティーイズム(体調不良を抱えながら働くことによる生産性低下)の改善、欠勤・休職リスクの低減にもつながることが期待されます。また健康経営への投資は企業イメージ・採用力の向上にも寄与するとされており、食の取り組みはまさに健康経営の実践と直結しています。

職場での食環境整備が従業員の健康づくりを後押しする

厚生労働省の「健康日本21(第三次)」関連資料では、職場において「職場で提供される食事や栄養管理の改善により、野菜や果物の摂取量の増加、食事の改善、肥満などの健康状態の改善に寄与することが報告されている」と明記されており、職場の食環境整備の重要性が強調されています。

同資料では「健康経営の考え方が広がり、職域で健康づくりに取り組む機運が高まっており、職場で提供される食事を含めた食環境の改善は、従業員の健康づくりだけでなく、経営面からも重要である」とも示されており、食環境の整備は今後ますます企業に求められる取り組みといえます。

社員食堂での野菜メニューの充実、自動販売機・売店での野菜飲料や野菜を使った弁当の提供、食堂にベジファーストを促す掲示を設けるといった環境整備は、個人の行動変容を自然に後押しする「ナッジ(nudge)」として有効です。

農林水産省「野菜を食べようプロジェクト」を職場で活用する

農林水産省は令和2年(2020年)12月に「野菜を食べようプロジェクト」を立ち上げ、国産野菜の消費拡大と国民の野菜摂取量の増加を目指した取り組みを進めています。

プロジェクトの概要と目的

このプロジェクトの背景には、1日あたりの野菜摂取目標量350gに対して、実態が280g程度(現在は256g)にとどまっており、約70%の人が目標量に達していない状況があります。農林水産省は、SNSやウェブページを通じてお手頃価格の野菜情報やレシピを発信するとともに、企業・団体と連携しながら野菜消費拡大の普及に取り組んでいます。

野菜サポーターとしての企業参加

このプロジェクトに賛同し、野菜の消費拡大に一緒に取り組む企業・団体は「野菜サポーター」として農林水産省のウェブページで紹介される仕組みがあります。食品製造業・外食産業・小売業に限らず、さまざまな業種の企業が野菜サポーターとして参加できます。企業として野菜サポーターに参画することは、社員に対して「会社として社員の食と健康を大切にしている」というメッセージを発信することにもなり、健康経営の姿勢を社内外に示す一つの手立てとなります。農林水産省が作成したポスター素材なども活用できるため、社内掲示や社内報への転用も可能です。

社員食堂やオフィスの休憩スペースへのポスター掲示、社内メールでの野菜摂取に関する情報発信、社員向け食育イベントの開催など、プロジェクトの素材・情報を活用しながら、社内の野菜摂取推進活動に取り組むことができます。

JADP認定生活習慣病予防アドバイザーという選択肢

社員の食・健康意識向上を社内から継続的に支えていくために、担当者自身が生活習慣病予防に関する体系的な知識を身につけておくことは大きな強みになります。そうした学びの選択肢のひとつとして、一般財団法人日本能力開発推進協会(JADP)が認定する「JADP認定生活習慣病予防アドバイザー®」という民間資格があります。この資格は、糖尿病・脂質異常症・動脈硬化・痛風・がんなどの生活習慣病の基礎知識から、正しい食生活・エクササイズ・予防法まで、生活習慣病に関連する総合的な知識の習得を証明するものです。医療・福祉関係者だけでなく、美容・飲食業界のプラスαの知識として推奨されており、人事労務担当者や産業保健スタッフが職場の健康推進活動の知識基盤を整えるうえでも活用できる資格です。

なお、JADPは民間の資格認定機関であり、国家資格ではありません。あくまで学びと知識習得の手段のひとつとして参考にしていただければと思います。詳細は一般財団法人日本能力開発推進協会(JADP)公式サイトでご確認ください。

社内でできるベジファースト推進の具体的なアイデア

「ベジファーストを社員に広めたい」と思っても、どこから手をつければよいか迷うことがあるかもしれません。以下に、規模や予算にかかわらず比較的取り組みやすいアイデアを整理しました。

取り組みの種類 具体的な内容
情報発信 社内報・イントラネット・ポスターでベジファーストの効果と実践方法を紹介。農林水産省のポスター素材を活用
食環境整備 社員食堂でのベジファースト推奨メニューの設定・掲示。野菜を先に食べることを促す席のPOP設置
健診との連携 定期健診・特定保健指導の場で、野菜摂取や食べる順番の重要性を保健師・管理栄養士から説明してもらう
衛生委員会・研修活用 衛生委員会での食生活テーマの議題化。社内研修で生活習慣病予防と食事の関係を学ぶ機会を設ける
イベント企画 「野菜の日(8月31日)」にちなんだ社内キャンペーンの実施。農林水産省のプロジェクトに連動したイベントの開催
数値の見える化 健康診断結果や特定保健指導のデータをもとに、社員の野菜摂取・生活習慣病リスクの傾向を分析・フィードバック

一つひとつの取り組みは小さくても、継続することで社員の意識は確実に変わっていきます。大切なのは「特別なこと」として押しつけるのではなく、日常の食事に自然に取り入れられる形で情報を届けることです。

ベジファーストに関するよくある質問(Q&A)

Q1. ベジファーストはどんな野菜でも効果がありますか?
食物繊維を多く含む野菜ほど、血糖値上昇を抑える効果が期待できます。モロヘイヤ、ブロッコリー、オクラ、ほうれん草などの葉物・根菜類に加え、きのこ類、海藻類、豆類も食物繊維が豊富です。サラダや温野菜、汁物などいずれの形でも取り入れやすいので、まずは食事の最初に野菜料理を一品食べることを意識してみましょう。
Q2. 野菜を食べようプロジェクトに企業として参加するにはどうすればよいですか?
農林水産省の「野菜を食べようプロジェクト」のウェブページから、「野菜サポーター」として参加申し込みができます。野菜の消費拡大につながる取り組みを行っている、または行う意欲のある企業・団体が対象です。登録により農林水産省のホームページに企業名が掲載されるほか、ロゴマークの使用も可能になります。
Q3. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でベジファーストの記述が削除されたとのことですが、実践する意味はなくなりましたか?
意味はなくなっていません。記述が整理された背景は「野菜さえ先なら何でもよい」といった単純化された理解による誤解を防ぐためです。現在は、野菜を含む非炭水化物を先に食べ、炭水化物(主食)を後にする「カーボラスト」の考え方がより重視されています。野菜を先に食べる習慣は、食物繊維の摂取量増加や過食防止の観点から引き続き非常に有効な手段です。
Q4. 健康経営優良法人の認定において、食生活改善の取り組みは評価されますか?
評価されます。健康経営優良法人認定の評価項目には「食生活の改善に向けた取り組み」が含まれています。具体的には、社員食堂での栄養バランス配慮、セミナーや情報提供の実施などが該当します。ベジファーストの推進や「野菜を食べようプロジェクト」への参加実績も、これら食生活改善に関する具体的な施策として位置づけることができます。
Q5. 社員食堂がない小規模な職場でも取り組めることはありますか?
もちろんあります。社員食堂がなくても、社内メールや掲示板を活用した食育情報の配信、衛生委員会での食生活テーマの取り上げ、定期健診結果に基づく保健師のアドバイス実施など、低コストで始められる取り組みは豊富です。まずは「野菜をプラス一品する」などの簡単なメッセージを発信することから始めてみましょう。

社員の食と健康を、職場から変えていくために

「野菜を先に食べる」というシンプルな習慣は、一見小さな行動に思えるかもしれません。しかし、この一歩が食事全体の意識変容につながり、生活習慣病リスクの低減、そして個人と組織の双方にとってのウェルビーイング向上へと波及していきます。

当解説記事でご紹介したように、日本人の野菜摂取量は目標を大幅に下回っており、現役世代が多く集まる職場こそ食の取り組みを推進できる重要な場です。農林水産省「野菜を食べようプロジェクト」への参画、担当者自身の知識武装としての生活習慣病予防に関する学び、社内の食環境整備や情報発信——これらを組み合わせることで、食を起点とした健康経営の取り組みを着実に前進させることができます。

特別な設備や大きな予算がなくても、担当者が「知識」と「意識」を持ち、継続的に情報を届けることが、社員の食と健康を変えるもっとも確実な道です。ベジファーストという一皿から、職場の健康文化を育てていただければと思います。