農林水産省が推進する「野菜を食べようプロジェクト」をご存じでしょうか。野菜の消費拡大を目的にスタートしたこの国のプロジェクトは、実は企業の健康経営や社員の生活習慣病予防にも積極的に活用できる取り組みです。当解説記事では、プロジェクトの概要を農林水産省の公式情報をもとに整理したうえで、人事労務担当者や産業保健スタッフが社員の健康管理に活かすための具体的な方法をご紹介します。食から職場の健康づくりを前進させるヒントとしてお役立てください。
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「野菜を食べようプロジェクト」が生まれた背景
厚生労働省が推進する国民健康づくり運動「健康日本21(第三次)」では、20歳以上の1人1日あたりの野菜摂取目標量を350g以上と定めています。これはカリウム・食物繊維・抗酸化ビタミン等を適量摂取するうえで期待される量として設定されたものです。
日本人の野菜摂取量は目標を大きく下回っている
しかし、令和5年の国民健康・栄養調査によると、野菜摂取量の平均値は256.0g(男性262.2g、女性250.6g)にとどまっており、目標の350gを約94g下回っています。農林水産省の資料でも「約7割の人が摂取目標量に達していない」という状況が繰り返し示されており、野菜不足は個人の問題にとどまらず、社会全体として取り組むべき課題となっています。
また農林水産省によると、野菜が目標量に達していない理由のひとつとして「自分自身が摂取している野菜の量や不足量を正しく把握できていないこと」が挙げられており、知識・意識の問題も大きな課題となっています。
現役世代・若い世代ほど野菜不足が目立つ
野菜摂取量の不足は全年齢層に共通する課題ですが、特に20〜40歳代の現役世代で不足が目立つことが農林水産省のシンポジウムでも繰り返し指摘されています。年齢が上がるにつれて摂取量が増える傾向はあるものの、働き盛りの現役世代は外食・簡便食への依存度が高く、野菜を十分に摂る機会が少なくなりがちです。このことは、企業で多くの現役世代が集まる職場こそ、野菜摂取への意識向上に取り組むうえで最適な場であることを示しています。
「野菜を食べようプロジェクト」の概要
「野菜を食べようプロジェクト」は、農林水産省が令和2年(2020年)12月に立ち上げた国産野菜の消費拡大を推進するためのプロジェクトです。1人1日あたりの野菜摂取目標量350gへの到達を促すことを目的とし、SNSやウェブページを通じた消費者への情報提供、食品事業者との連携、野菜摂取の見える化など、多角的な取り組みを展開しています。
プロジェクトの目的と農林水産省の取り組み
農林水産省はプロジェクトの一環として、以下のような活動を行っています。例えば、公式Facebook・X(旧Twitter)等を通じてお手頃価格で購入できる野菜と、それを使ったメニューを定期的に紹介しています。また、プロジェクトの公式ウェブページでは野菜のレシピや食品事業者の取り組みを発信しており、毎週の小売価格調査・毎月の卸売価格見通しの公表に合わせてお手頃野菜を使ったメニューも紹介されています。さらに毎年8月31日の「野菜の日」に合わせてWebシンポジウムを開催し、野菜摂取の重要性を広く発信しています。
野菜サポーター制度:企業・団体が参加できる仕組み
プロジェクトの大きな特徴のひとつが「野菜サポーター」制度です。プロジェクトの趣旨に賛同し、野菜の消費拡大に取り組む企業・団体を農林水産省が「野菜サポーター」として公式ウェブページで紹介する仕組みです。令和7年度現在、208の企業・団体がすでに野菜サポーターとして参加・賛同しています。食品製造業・外食産業・小売業だけでなく、業種を問わずさまざまな企業が参加できます。
野菜サポーターへの参加を希望する場合は、農林水産省の「野菜を食べようプロジェクト」事務局に「野菜サポーター登録申請書」を提出するだけで申し込みができます。申請書はプロジェクトのウェブページからダウンロードできます。
ロゴマーク・ポスターの活用
農林水産省はプロジェクトの共通ロゴマークを制定しており、ロゴマーク利用規程に基づいて広報物等に広く使用することができます。
また、全国公募で選ばれた「野菜を食べようプロジェクト」ポスター(農産局長賞受賞作品)も、野菜の消費拡大に取り組む企業・団体が自由に使用できます。このポスターは農林水産省のウェブページからダウンロードして活用することが可能です。これらのロゴマーク・ポスターは、社内掲示・社内報・配布物など、職場での野菜摂取啓発活動に幅広く活用できる素材です。
「野菜の日」(8月31日)特別企画と野菜摂取の見える化
8月31日は「8(ヤ)3(サ)1(イ)」の語呂合わせで「野菜の日」とされており、農林水産省はこの日に合わせてさまざまな特別企画を実施しています。
中でも注目されているのが「野菜摂取量の見える化の取組」です。農林水産省は令和4年(2022年)から、「野菜の日」の特別企画として省内に野菜摂取状況を測定できる機器を設置し、職員や来庁者が自分の野菜摂取量を数値で確認できる機会を提供しています。測定には手指の皮膚に含まれるカロテノイド量を光学的に測定することで推定野菜摂取量を数値化する機器(ベジメータ・ベジチェック等)が使用されています。
令和5年度の農林水産省内での取組結果では、測定した職員の平均スコアが1回目より2回目のほうが有意に上昇しており、測定を受けたことで野菜摂取を意識する行動変容が生じたことが確認されています。また「野菜を摂取するよう心がけていますか」という意識に関する設問でも、測定前後で肯定的な回答の割合が増加しています。この「見える化」の効果は、職場の健康管理にそのまま応用できる大きなヒントを示しています。
なぜ今、職場で野菜摂取への取り組みが求められるのか
経済産業省が推進する健康経営では、「食生活の改善に向けた取り組み」が健康経営優良法人の認定評価項目のひとつとして含まれています。野菜摂取の促進・食環境の整備は、この項目に直接関わる取り組みとして位置づけることができます。
健康経営と食生活改善の関係
厚生労働省の「健康日本21(第三次)」関連資料でも「健康経営の考え方が広がり、職域で健康づくりに取り組む機運が高まっており、職場で提供される食事を含めた食環境の改善は、従業員の健康づくりだけでなく、経営面からも重要である」と明示されています。
野菜摂取習慣の改善は、生活習慣病リスクの低減・医療費の抑制・プレゼンティーイズム(体調不良を抱えながら働くことによる生産性低下)の改善にも寄与することが期待されており、長期的な視点での経営上の投資効果も大きいといえます。
職場の食環境整備は行動変容を後押しする
野菜摂取量の改善を個人の意思や努力だけに任せると、継続は難しくなりがちです。厚生労働省の研究でも、個人の行動変容を促すためには「個人への働きかけ」とともに「それを支える環境づくり」が不可欠とされています。
社員食堂での野菜メニューの充実、自動販売機・売店での野菜飲料・野菜惣菜の拡充、休憩スペースへのポスター掲示といった食環境整備は、社員が日常的に野菜を選びやすくなる「ナッジ(nudge)」として機能します。農林水産省が省内職員向けに実施した取組でも、測定機器の設置や食堂との連携企画を組み合わせることで、職員の野菜摂取量と意識の双方に改善効果が確認されています。
プロジェクトを職場の健康管理に活かす具体的な方法
農林水産省「野菜を食べようプロジェクト」を、職場における健康管理や社員の健康意識向上に活かすための具体的方法をご紹介します。
活用例:ポスター・ロゴマークを使った社内啓発
農林水産省が公開しているプロジェクトポスターおよびロゴマークは、利用規程の範囲内で社内広報物に自由に使用できます。社員食堂・休憩室・更衣室・エレベーター前など、社員の目に触れやすい場所への掲示が効果的です。
掲示にあわせて「1日の目標量は350g」「今日の食事で何g食べましたか?」といったシンプルなメッセージを添えることで、社員が日々の食事を振り返るきっかけになります。社内報やイントラネットでの情報発信にロゴマークを活用することも、継続的な意識づけに有効です。
活用例:「野菜の日」に合わせた社内イベントの企画
8月31日の「野菜の日」は、社内で食育イベントを企画するうえで最も活用しやすいタイミングです。農林水産省も毎年この日に合わせてWebシンポジウムや特別企画を実施しており、そのコンテンツを社内研修・朝礼・衛生委員会でのテーマとして活用することもできます。
具体的なイベントの例としては、社員食堂との連携による「野菜たっぷりメニューフェア」の開催、野菜摂取量を測定できる機器(ベジチェック等)の一時導入、社内報での野菜レシピ特集、管理栄養士・保健師による食育ミニ講座などが挙げられます。「数値で自分の野菜不足を確認する」体験は、農林水産省の取組結果からも行動変容につながりやすいことが示されており、単なる情報発信よりも意識改革の効果が高いと考えられます。
活用例野菜摂取の「見える化」を健診・保健指導と連携させる
農林水産省が実施している「野菜摂取量の見える化」の考え方は、そのまま職場の健診・保健指導と連携させることができます。手指の皮膚カロテノイドを測定する機器(ベジメータ・ベジチェック等)を定期健診の会場や特定保健指導の面談時に導入し、数値として野菜摂取状況をフィードバックすることで、保健指導の説得力が増します。
農林水産省の職員向け取組の結果では、測定を受けた約60人が特定保健指導の対象となり、測定結果を活用した食生活指導を受けたことが報告されています。測定数値を起点として「今日の昼食でサラダを1品追加する」といった具体的な行動目標を設定することで、指導効果が高まることが期待できます。
なお、こうした測定機器の導入にあたっては、個人情報の取り扱いや社員への事前説明など、プライバシーへの配慮を丁寧に行うことが大切です。
活用例:衛生委員会・研修での食育テーマの取り上げ
衛生委員会での調査審議や社内研修の場を活用して、野菜摂取・食生活改善をテーマとして取り上げることも有効です。「野菜を食べようプロジェクト」の概要や農林水産省が発信している野菜摂取に関するデータを材料として提供することで、担当者が新たな資料を一から準備する手間を省きながら、信頼性の高い情報を社員に届けることができます。
農林水産省が毎年8月31日に開催している「野菜の日」Webシンポジウムの講演資料は農林水産省のウェブページで公開されており、衛生委員会や研修用の参考資料として活用できます。厚生労働省の栄養指導室室長補佐による「健康日本21(第三次)における野菜摂取量増加の重要性」の講演資料なども公開されており、生活習慣病予防と野菜摂取の関係を専門的な視点からわかりやすく説明する材料として活用できます。
野菜を食べようプロジェクトに関するよくある質問(Q&A)
食から始める、職場の健康づくりのために
農林水産省「野菜を食べようプロジェクト」は、国が主導する公的な取り組みであり、その素材・情報を企業が無料で活用できる開かれたプロジェクトです。野菜サポーターへの参加、ポスター・ロゴマークの活用、「野菜の日」に合わせたイベント、野菜摂取の見える化との連携——これらはいずれも人事労務担当者や産業保健スタッフが単独で進められるものばかりです。
野菜摂取量の改善は、生活習慣病の予防・進行抑制に直結し、ひいては従業員の健康寿命延伸・医療費の適正化・生産性の向上という形で企業にとってのメリットにもつながります。健康経営を推進する企業にとって、食の取り組みは決して小さな課題ではありません。
当解説記事でご紹介した活用法はあくまで一例です。自社の規模・状況・既存の健康施策に合わせて、できることから取り組んでみてください。「野菜を食べようプロジェクト」という国のプラットフォームを賢く活用することが、職場の食と健康を変えていく一歩となります。



