労働基準法とは|人事労務担当者が押さえるべき主要条文・罰則・2025年以降の改正動向を解説

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構
人事労務担当者向けの「労働基準法」を解説したアイキャッチ画像

「労働基準法って、何がどこに書いてあるのか全体像がつかみにくい」「条文は知っているが、実務でどう運用すればよいかわからない」という人事労務担当者の声は少なくありません。労働基準法は1947年(昭和22年)の制定以来、働く人の基本的な権利を守る労働法の根幹として機能してきました。当解説記事では、法律の目的・構成・適用範囲から、賃金・労働時間・休暇・解雇等の主要条文のポイント・違反した場合の罰則・労働基準監督署への対応・2025年以降の改正動向まで、厚生労働省の情報をもとに実務に役立つ形で解説します。


 

💡 この記事でわかること
  • 1労働基準法が定める目的や適用範囲、法律全体の構成をはじめ、人事労務の担当者が日々の日常業務で直面しやすい主要な条文の内容がわかります。
  • 2賃金支払い5原則、法定労働時間、割増賃金率(残業代の計算)、年次有給休暇の付与、解雇規制など、会社の実務に直結する重要規定の要点が整理できます。
  • 3法令に違反した場合のペナルティ(罰則の種類や重さ)、労働基準監督署による調査(臨検)への適切な対応方法、および2025年以降の最新の改正動向について理解できます。

労働基準法とは:目的と位置づけ

労働基準法(昭和22年法律第49号)は、労働者が人たるに値する生活を営むために必要な労働条件の最低基準を定めた法律です(同法第1条第1項)。使用者(事業者)と労働者の間には経済的な力の差があり、個々の交渉に委ねると労働者が不利な条件を受け入れざるをえない状況が生じやすいため、国が法律で最低基準を定めることで労働者を保護しています。

重要なのは「最低基準」という性格です。同法第1条第2項は「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならない」と定めており、法律の基準を上回る労働条件を設けることは自由ですが、下回ることは許されません(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。

労働基準法について、目的・適用範囲・主要条文・罰則・改正動向など実務上の重要ポイントをまとめた要約図
労働基準法とは

適用範囲:誰に適用されるか

労働基準法は、原則として日本国内で働くすべての労働者に適用されます。正社員・契約社員・パートタイム・アルバイト・派遣労働者を問わず、また外国人労働者(不法就労を含む)にも適用されます。

適用されない・適用が一部除外されるケースとして、同居の親族のみを使用する事業(第116条)、家事使用人(第116条)、農業・水産業の一部、管理監督者・機密の事務を取り扱う者・監視または断続的労働従事者(第41条。労働時間・休憩・休日規定の適用除外)等があります。

労働条件の明示義務(第15条)

使用者は、労働契約の締結の際に労働者に対して労働条件を明示しなければなりません(第15条)。特に書面(または本人の希望に応じた電磁的方法)による明示が義務づけられている絶対的明示事項として、労働契約の期間・就業の場所・従事する業務の内容・始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇・賃金の決定・計算・支払方法・昇給に関する事項・退職に関する事項(解雇事由を含む)があります。

2024年4月1日からは、有期労働契約の更新時の明示事項として、更新上限の有無と内容・無期転換申込機会・転換後の労働条件の明示も義務化されました(厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。

賃金支払いの5原則(第24条)

賃金の支払いについては、第24条に定める5つの原則を遵守しなければなりません。実務上のトラブルが最も多い領域のひとつです。

賃金支払の5原則 具体的な法規要件および例外・実務運用の詳細
通貨払いの原則 通貨払いの原則として、賃金は通貨で支払わなければなりません。現物支給は原則禁止です。ただし労使協定がある場合の銀行振込・証券総合口座への振込、2023年4月以降は要件を満たした資金移動業者の口座(デジタル払い)も認められています。
直接払いの原則 直接払いの原則として、賃金は労働者本人に直接支払わなければなりません。家族への支払い・第三者への委任払いは原則として認められません。
全額払いの原則 全額払いの原則として、賃金は所定の全額を支払わなければなりません。ただし所得税・社会保険料の法定控除、および労使協定(第24条協定)に基づく控除(社宅費・組合費等)は例外です。
毎月1回以上払いの原則 毎月1回以上払いの原則として、少なくとも毎月1回以上支払わなければなりません。年俸制であっても毎月の支払いが必要です。
一定期日払いの原則 一定期日払いの原則として、支払日を特定の日(例:毎月25日)に定めなければなりません。「毎月最終営業日」など変動する日程は原則として認められません。

労働時間・休憩・休日の基本ルール

法定労働時間(第32条)

使用者は、労働者に、休憩時間を除き1日8時間・1週40時間を超えて労働させてはなりません(第32条)。これを超えて労働させるためには36協定の締結・届出が必要です。なお常時10人未満の商業・サービス業等の特例業種については週44時間が上限となります(第40条・労働基準法施行規則第25条の2)。

休憩時間(第34条)

労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければなりません。休憩時間は原則として一斉に与え(一斉付与の原則)、自由に利用させなければなりません(自由利用の原則)。

法定休日(第35条)

使用者は、少なくとも毎週1日の休日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。法定休日は特定の曜日を指定する義務はなく、就業規則で定めた日が法定休日となります。法定休日に労働させた場合は35%以上の割増賃金が必要です。

割増賃金の種類と率(第37条)

時間外労働・休日労働・深夜労働に対しては、通常の賃金に加えて割増賃金を支払う義務があります。

種類 割増率 要件
時間外労働 25%以上 法定労働時間(1日8時間・週40時間)超の労働
時間外労働(月60時間超) 50%以上 1か月の60時間を超えた部分の時間外労働(中小企業も2023年4月〜適用)
法定休日労働 35%以上 法定休日(週1日)に労働させた場合
深夜労働 25%以上 午後10時〜午前5時の労働(他の割増と重複する場合は加算)

2023年4月1日からは、中小企業でも月60時間超の時間外労働に対する50%割増賃金が適用されています(厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」)。

年次有給休暇(第39条)

使用者は、6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10日の年次有給休暇を与えなければなりません(第39条第1項)。その後は勤続年数に応じて付与日数が増加します。パートタイム労働者等、所定労働日数が少ない労働者については比例付与の規定があります(第39条第3項)。

2019年4月からは、年10日以上の有給休暇が付与される全ての労働者に対して、付与日から1年以内に5日以上の有給休暇を確実に取得させる義務が事業者に課されています(第39条第7項)。違反した場合は30万円以下の罰金(第120条)の対象です。

解雇に関するルール(第19条・第20条)

解雇については、労働基準法が最低限のルールを定めており、労働契約法と合わせて理解することが必要です。

解雇に関する規定・条項 具体的な法規要件および例外・実務運用の詳細(原文通り)
解雇制限(第19条) 解雇制限(第19条)として、業務上の傷病による休業期間中およびその後30日間、産前産後休業期間中およびその後30日間は、原則として解雇できません。
解雇予告(第20条) 解雇予告(第20条)として、使用者は労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。試用期間中でも14日を超えて引き続き使用した場合は第20条が適用されます。

なお、「解雇の合理性・社会的相当性」の判断(解雇権濫用法理)は労働契約法第16条に定められており、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない解雇は無効となります。

産前産後休業(第65条)と育児時間(第67条)

産前休業として、産前6週間(多胎妊娠の場合14週間)以内に本人が請求した場合、就業させてはなりません(第65条第1項)。産後休業として、産後8週間は就業させることができません。ただし産後6週間を経過した場合に本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務への就業は可能です(第65条第2項)。軽易業務転換として、妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければなりません(第65条第3項)。育児時間として、生後満1年に達しない生児を育てる女性は、1日2回各々少なくとも30分の育児時間を請求できます(第67条)。

労働基準法違反の罰則

労働基準法に違反した場合の主な罰則を整理します。人事労務担当者は違反行為が会社(法人)だけでなく、実際に違反を行った行為者(管理職・担当者)個人にも適用される「両罰規定」(第121条)が設けられていることを把握しておく必要があります。

違反の内容 罰則 根拠条文
強制労働の禁止違反 1年以上10年以下の拘禁刑または20万〜300万円以下の罰金 第117条
中間搾取の禁止違反 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 第118条
時間外労働の上限違反・36協定なしの残業 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 第119条
解雇予告の違反 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 第119条
産前産後休業違反 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 第119条
年次有給休暇の取得義務違反・労働条件の明示違反等 30万円以下の罰金 第120条

労働基準監督署の調査への対応

労働基準監督署は、労働基準法等の遵守状況を監督する厚生労働省の機関です。調査は「定期監督」(計画的なもの)と「申告監督」(労働者からの申告に基づくもの)の2種類があります。

調査を受けた際に準備すべき書類として、就業規則・36協定の写し・賃金台帳・出勤簿またはタイムカード・労働者名簿・雇用契約書等が求められる場合があります。是正勧告を受けた場合は、指定された期日までに是正報告書を提出する必要があります。是正勧告に従わない場合は書類送検の対象となりえます。

2025年以降の改正動向:40年ぶりの大改正が視野に

厚生労働省は2024年1月に「労働基準関係法制研究会」を設置し、労働時間法制を中心とした大規模な見直しの検討を進めてきました。2025年1月に公表された報告書では、勤務間インターバルの義務化・年次有給休暇制度の見直し・裁量労働制の拡大・フレキシブルな労働時間制度の整備等が論点として示されました(厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書、2025年1月)。

当初は2026年の通常国会への法案提出が想定されていましたが、2025年12月時点では提出見送りが報じられており、スケジュールは流動的な状況です。ただし研究会報告書で示された方向性は将来の改正につながる可能性が高く、人事労務担当者として動向を継続的に注視することが重要です。

直近の確定済みの改正として、2024年4月施行の建設業・自動車運転業務・医師への時間外労働上限規制の適用、2024年4月施行の有期労働契約の労働条件明示ルールの変更、2024年4月施行の裁量労働制の見直しが実施されています。

労働基準法に関するよくある質問

Q アルバイト・パートには労働基準法は適用されますか?
A

適用されます。雇用形態を問わず、使用者(会社)と労働者の労働契約関係にある場合は労働基準法が適用されます。法定労働時間・割増賃金・年次有給休暇・解雇予告等のルールはアルバイト・パートにも適用されます。なお年次有給休暇については所定労働日数に応じた比例付与の規定があります。

Q 就業規則が労働基準法の基準を下回っている場合はどうなりますか?
A

労働基準法の基準に違反する就業規則の部分は無効となり、その部分については労働基準法の基準が適用されます(労働契約法第12条)。例えば法定割増賃金率を下回る率を就業規則に定めていても、その部分は無効です。就業規則を作成・変更する際は、労働基準法の最低基準を下回る内容になっていないかを必ず確認することが必要です。

Q 管理職(管理監督者)は労働時間の規制を受けないのですか?
A

労働基準法第41条第2号の「管理監督者」に該当する場合は、労働時間・休憩・休日に関する規定の適用が除外されます。ただし管理監督者に該当するかは名称ではなく実態(職務内容・権限・待遇等)で判断され、厚生労働省の通達では厳格な要件が示されています。また管理監督者であっても深夜業の割増賃金規定は適用され、年次有給休暇も付与されます。

Q 「名ばかり管理職」の問題とは何ですか?
A

名称上は「課長」「店長」等の管理職とされていても、実態として管理監督者の要件(経営者との一体性・権限・待遇等)を満たさない場合、労働基準法上の管理監督者として扱うことができず、時間外・休日割増賃金の支払い義務が生じます。これを「名ばかり管理職」問題といい、未払い残業代の請求・労働基準監督署への申告につながるケースが多くあります。

Q 会社が労働基準法に違反しているかどうかはどうやって確認できますか?
A

厚生労働省が運営する「確かめよう労働条件」(https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/)では、主要な労働基準法のルールを自己チェックできるコンテンツが提供されています。また総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・労働基準監督署に設置)では、労務管理の適否に関する相談を無料で受け付けています。

法律の「最低基準」を超えた職場づくりを

労働基準法は働く人を守るための最低限のルールです。しかし人事労務の実務において目指すべきは「法令を守ること」を超えた、従業員が安心して能力を発揮できる職場環境の整備です。有給休暇の取得促進・適切な労働時間管理・割増賃金の正確な計算・産前産後の就業配慮といった取り組みは、法令遵守であると同時に人材確保・定着・エンゲージメント向上という経営課題の解決にも直結します。

2025年以降、労働基準法の大規模改正が視野に入っています。現行の法律の要点を正確に把握したうえで、改正動向を継続的に確認し、必要な対応を先手で進める体制を整えておくことが、人事労務担当者として今求められている姿勢です。

労働基準法に関する主要情報へのクイック参照表(リンク集)