メンタルヘルスとは?定義・職場の現状・不調のサイン・対策の基本を解説

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構

メンタルヘルスという言葉は日常的に使われるようになりましたが、正確な定義や職場での位置づけ、対策の基本的な考え方について、体系的に把握できていないという人事労務担当者や産業保健スタッフの方も少なくないのではないでしょうか。当解説記事では、WHO・厚生労働省が示すメンタルヘルスの定義から、職場の最新データ・不調のサイン・4つのケアを軸とした対策の基本まで、厚生労働省の情報をもとにわかりやすく解説します。


メンタルヘルスとは

メンタルヘルスは英語の「Mental(精神的な)」と「Health(健康)」を組み合わせた言葉で、直訳すると「こころの健康」を意味します。厚生労働省の「世界メンタルヘルスデーJAPAN」特設サイトでは「体の健康ではなく、こころの健康状態を意味する」と説明されており、体が軽い・力が湧いてくるといった感覚と同様に、心が軽い・穏やかな気持ち・やる気が湧いてくる状態がこころの健康な状態といえます。

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メンタルヘルスとは

WHOによるメンタルヘルスの定義

世界保健機関(WHO)は、メンタルヘルスを「すべての個人が自らの可能性を認識し、日常生活のストレスに対処し、生産的かつ有益に働き、自分が所属するコミュニティに貢献できる、満たされた状態(a state of well-being)」と定義しています。

この定義で重要なのは、メンタルヘルスが「病気でない状態」ではなく、「自らの能力を発揮し、社会に貢献できる積極的な状態」として捉えられている点です。WHO憲章においても「健康とは、単に病気ではないあるいは弱っていないというだけではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義されており、メンタルヘルスはこの包括的な「健康」の根幹をなす要素です。

厚生労働省の示す「心の健康」の4要素

厚生労働省は「心の健康はいきいきと自分らしく生きるための重要な条件」としたうえで、心の健康を構成する具体的な要素として以下の4点を示しています。

  • 自分の感情に気づいてこれを表現できること(情緒的健康)
  • 状況に応じて考え、現実的な問題解決ができること(知的健康)
  • 他人や社会と建設的でよい関係を築けること(社会的健康)
  • 人生の目的や意義を見出し、主体的に生きられること(人生的健康)

これらは相互に影響し合っており、どれか一つが損なわれると全体のバランスが崩れやすくなります。また、心の健康には個人の資質や能力のほかに、身体状況・社会経済状況・対人関係などが強く関係していることも示されています。

メンタルヘルスとメンタルヘルス不調の違い

メンタルヘルスがこころの健康な状態を指すのに対し、メンタルヘルス不調とはこころの健康が損なわれた状態を指します。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルス不調を「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含む」と定義しています。

つまりメンタルヘルス不調は、うつ病・適応障害・不安障害などの精神疾患として診断される段階のものだけでなく、日常的なストレスの蓄積・強い悩み・不安・意欲の低下なども広く含まれます。この幅広い概念を理解することが、早期発見・早期対応の鍵となります。

日本の職場におけるメンタルヘルスの現状

メンタルヘルス対策の重要性が叫ばれるなか、職場の実態はどのようになっているのでしょうか。厚生労働省が毎年実施している「労働安全衛生調査(実態調査)」の最新データをもとに整理します。

ストレスを感じる労働者の割合

令和5年の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安・悩み・ストレスを感じている労働者の割合は82.7%にのぼります(令和4年調査では82.2%)。約8割以上の労働者が何らかの強いストレスを抱えているという実態は、職場のメンタルヘルス対策が「一部の人への対応」ではなく、すべての労働者に関わる普遍的な課題であることを示しています。

ストレスの内容としては「仕事の量・質」「仕事の失敗・責任の発生」「対人関係」が上位を占めており、業務負荷・職場の人間関係・役割や責任の重さが主なストレス要因となっています。

精神障害による労災の増加

令和5年度の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害による労災請求件数は3,575件(前年度比892件増)となり、支給決定件数・請求件数ともに過去最多を更新しています。その後も増加傾向は続いており、令和6年度には精神障害の労災支給決定件数が6年連続で増加しています。

精神障害の労災認定において原因の上位に挙げられているのは、パワーハラスメント・長時間労働・上司とのトラブル・仕事の量・質の変化などです。これらは事業者が安全配慮義務の観点から対応すべき事項と直結しており、メンタルヘルス対策が法的リスク管理の観点からも重要であることを示しています。

メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合

令和6年の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合は63.2%となっており、前年(63.8%)からほぼ横ばいで推移しています。

事業場規模別では、1,000人以上の大規模事業場では100%が取り組んでいる一方、30〜49人規模では69.1%、10〜29人規模では55.3%にとどまっており、小規模事業場での対策の遅れが課題として浮かび上がっています。

事業場規模 メンタルヘルス対策への取り組み割合
1,000人以上 100%
50人以上(1,000人未満) 94.3%
30~49人 69.1%
10~29人 55.3%

出典:令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」(厚生労働省)


メンタルヘルス不調が生じる主な原因

メンタルヘルス不調は特定の原因一つから生じるのではなく、複数の要因が複合的に絡み合って発生します。職場において適切な対策を講じるために、主な原因を把握しておきましょう。

ストレス要因の分類 具体的な要因・影響および対策の詳細
仕事に関連するストレス要因 職場のメンタルヘルス不調に深く関わるストレス要因としては、仕事の量的負担(業務量の多さ・長時間労働)、仕事の質的負担(高度な判断・責任・難易度)、仕事のコントロール度の低さ(自分で仕事の進め方を決められない状態)、職場の対人関係のストレス(上司・同僚との摩擦・ハラスメント)、職場環境の問題(騒音・温度・照明等の物理的環境)、役割の不明確さ・適性とのミスマッチ、職場からのサポートの不足などが挙げられます。
厚生労働省が推奨するストレスチェックの標準的な調査票(職業性ストレス簡易調査票)も、これらの仕事のストレス要因・ストレス反応・周囲のサポートの3領域を測定するよう設計されています。
個人的・生活環境に関わる要因 メンタルヘルスは職場のストレスだけで決まるものではなく、個人の特性や職場外の生活環境も大きく影響します。睡眠不足・不規則な生活リズム・身体疾患の存在、家族関係・育児・介護などの家庭内の問題、経済的な問題・ライフイベントによる変化(転居・結婚・離別等)、もともとの性格特性(完璧主義・責任感の強さ等)、過去の精神科疾患の既往などが個人要因として挙げられます。
同じストレス環境にあっても、不調になりやすい人とそうでない人がいるのは、こうした個人的・生活環境に関わる要因が影響しているためです。職場での対策では、仕事上のストレス要因の低減とともに、労働者個人のストレス対処能力(レジリエンス)の向上支援を組み合わせることが有効です。

メンタルヘルス不調のサインを見逃さないために

メンタルヘルス不調は、重篤化する前に早期に気づき対応することが最も重要です。本人が気づきやすいサインと、周囲の人が気づきやすいサインそれぞれを把握しておきましょう。

本人が気づきやすいサイン

本人が自覚しやすいメンタルヘルス不調のサインとして、眠れない・眠りが浅い・朝早く目が覚めるといった睡眠の問題、食欲の低下や過食、倦怠感・疲れが取れない感覚、気分の落ち込み・悲しみ・虚無感・涙が出る、何事にも興味がわかない・楽しめない、集中力・判断力の低下・ミスが増える、不安感・焦り・イライラが止まらない、頭痛・肩こり・胃腸の不調など身体症状として現れるものもあります。

厚生労働省は「心の健康を保つには、適度な運動・バランスのとれた食生活・十分な睡眠、加えてストレスと上手につきあうことが必要不可欠」と示しており、睡眠・食事・活動の乱れは心の健康の黄信号として捉えることが大切です。

管理職・周囲が気づきやすいサイン

管理職や同僚など周囲の人が気づきやすいサインとしては、遅刻・早退・欠勤の増加、仕事のミスやパフォーマンスの低下、表情の暗さ・覇気のなさ・反応の鈍さ、会話・コミュニケーションの減少、感情の不安定さ・些細なことで怒ったり泣いたりする、身だしなみの乱れ、飲酒量の増加などが挙げられます。

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、管理監督者が「いつもと違う」部下の様子に早めに気づき、話しかけて状況を確認するラインによるケアの重要性が強調されています。「いつもと違う」という管理職の直感は、重要な早期発見の契機となります。

職場のメンタルヘルス対策の基本:4つのケア

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)では、職場のメンタルヘルスケアを推進するために4つのケアを組み合わせることが求められています。この4つのケアは、職場のメンタルヘルス対策の基本的な枠組みとして、すべての事業場で活用できる考え方です。

4つのケアの区分 取り組み内容・役割および推進方法の詳細
セルフケア セルフケアとは、労働者自身が自らのストレスに気づき、適切に対処する取り組みです。ストレスの原因に気づく力(ストレス感受性)を高めること、リラクセーション法・運動・趣味などのストレス解消法を身につけること、睡眠・食事・休息を適切に管理すること、必要な場合は産業医・保健師・相談窓口などに相談することが含まれます。
事業者には労働者のセルフケアを促進するための教育研修・情報提供を行う役割があり、「こころの耳」(厚生労働省のメンタルヘルスポータルサイト)では労働者向けのセルフチェックツールや相談窓口が提供されています。
ラインによるケア ラインによるケアとは、管理監督者が部下の状態を日常的に把握し、不調の早期発見・相談対応・職場環境の改善を行う取り組みです。管理監督者は労働者の最も身近な存在として、「いつもと違う」様子に気づき、声をかけ、必要に応じて産業保健スタッフや人事労務部門につなぐ役割を担います。
ラインによるケアを推進するためには、管理職向けのメンタルヘルス研修の実施と、相談を受けた際の対応マニュアルの整備が有効です。
事業場内産業保健スタッフ等
によるケア
事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、産業医・保健師・衛生管理者・心理専門職・人事労務スタッフ等が専門的な立場から労働者や管理監督者を支援する取り組みです。具体的には、ストレスチェックの実施と活用、高ストレス者への医師面接指導、個別の相談対応、職場環境改善への助言、心の健康づくり計画の立案・推進などが含まれます。
産業保健スタッフが連携して機能するためには、各スタッフの役割分担を明確にし、産業医を中心とした産業保健チームとして機能する体制を整えることが重要です。
事業場外資源によるケア 事業場外資源によるケアとは、社外の専門機関・専門家を活用してメンタルヘルスケアを推進する取り組みです。活用できる主な外部資源として、産業保健総合支援センター(さんぽセンター)・地域産業保健センター、EAP(従業員支援プログラム)機関、精神科・心療内科などの医療機関、「こころの耳」電話相談などが挙げられます。
特に産業医の選任義務がない50人未満の小規模事業場では、地域産業保健センターの無料支援サービスの活用が有効です。内部リソースだけで対応が難しい場合でも、外部資源を組み合わせることでメンタルヘルス対策を充実させることができます。

メンタルヘルス対策に関連する法令・制度

職場のメンタルヘルス対策は、複数の法令・制度によって事業者の取り組みが求められています。主なものを整理します。

 

  • 労働安全衛生法第70条の2第1項に基づく「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)
    職場のメンタルヘルスケアの推進に関する基本的な考え方と、事業者が取り組むべき事項を示した指針です。4つのケアの推進、心の健康づくり計画の策定・実施、職場復帰支援などが含まれます。
  • 労働安全衛生法第66条の10に基づくストレスチェック制度
    常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して年1回以上の実施が義務づけられています(2025年5月改正により、2028年度から50人未満事業場への義務化も決定)。メンタルヘルス不調の未然防止と職場環境の改善を目的とした制度です。
  • 労働契約法第5条に基づく安全配慮義務
    使用者は労働者の生命・身体・精神の安全を確保するよう配慮する義務を負います。メンタルヘルス不調者への対応が不十分で健康被害が生じた場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるリスクがあります。

メンタルヘルスに関するよくある質問

Q メンタルヘルスとメンタルヘルス不調はどう違いますか?
A

メンタルヘルスはこころの健康な状態を指す言葉です。WHOは「自らの可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的に働き、社会に貢献できる満たされた状態」と定義しており、本来はポジティブな概念です。一方、メンタルヘルス不調はこころの健康が損なわれた状態を指し、精神疾患として診断される段階のものだけでなく、強いストレス・強い不安・意欲低下なども幅広く含まれます。

Q メンタルヘルス不調は本人の意思の弱さが原因ですか?
A

そうではありません。メンタルヘルス不調は、仕事上のストレス要因・職場環境・個人的な状況・生活環境など複数の要因が複合的に重なって生じるものです。厚生労働省も「心の健康には個人の資質や能力のほかに、身体状況・社会経済状況・対人関係などが強く関係している」と示しており、本人の意思や根性の問題ではありません。こうした正しい理解が、職場での早期発見・支援につながります。

Q 管理職はメンタルヘルス不調の部下にどう接すればよいですか?
A

基本は「傾聴」と「つなぐ」ことです。「いつもと違う」と感じたら声をかけ、本人が話せる状況であれば話を聴きます。アドバイスや励ましよりも、まずは話をよく聴くことが大切です。深刻な様子であれば、産業医・保健師などの産業保健スタッフや人事労務担当者につなぎます。管理職が一人で抱え込む必要はなく、「つなぐ」ことが管理職の最も重要な役割のひとつです。

Q 中小規模の事業場でもメンタルヘルス対策はできますか?
A

できます。産業医・産業保健師が在籍していなくても、地域産業保健センター(さんぽセンター)では医師による相談や職場訪問を無料で受けられます。また、厚生労働省の「こころの耳」ポータルサイトでは、事業者・管理職・労働者それぞれ向けの情報・eラーニング・相談窓口が無料で提供されています。まずは相談窓口の整備と管理職向け研修の実施から始めることをお勧めします。

Q ストレスチェックとメンタルヘルス対策はどう関係しますか?
A

ストレスチェックはメンタルヘルス対策の重要な柱のひとつですが、それだけで対策が完結するわけではありません。ストレスチェックを実施することで個人のストレス状態への気づきを促し、高ストレス者には医師による面接指導につなぎ、集団分析結果を職場環境改善に活かすというサイクルが機能してはじめて、制度の本来の目的が達成されます。4つのケアの枠組みの中でストレスチェックを位置づけ、セルフケア・ラインケア・産業保健スタッフのケアと連動させることが重要です。

Q 世界メンタルヘルスデーとはどのような日ですか?
A

世界メンタルヘルスデーは毎年10月10日で、世界精神保健連盟がメンタルヘルス問題に関する意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的として定めたものです。WHOも協賛しており、世界60か国以上で啓発活動が行われています。日本では厚生労働省も「世界メンタルヘルスデーJAPAN」として特設サイトを開設するなど、積極的に周知・啓発活動を実施しています。

Q 過労死等の防止対策大綱のストレス軽減目標とはどのような内容ですか?
A

2024年8月に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」において、現在の仕事や職業生活に強いストレスを感じている労働者の割合を2027年までに50%未満とすることが目標として掲げられています。現状(令和5年調査82.7%)から大幅な改善が求められており、長時間労働の改善・有給休暇取得の促進・多様な働き方への対応・メンタルヘルス対策の推進などが政府・企業に求められています。

メンタルヘルスへの理解を職場の力にするために

メンタルヘルスは特定の人だけに関わる特別な問題ではありません。強いストレスを感じている労働者が約8割に達するという現実が示すとおり、職場で働くすべての人がメンタルヘルスと向き合いながら日々を過ごしています。

当解説記事でご紹介したとおり、メンタルヘルスとはこころが健康で満たされた状態を意味するポジティブな概念であり、「不調になってから対処する」のではなく「健康な状態を維持・増進する」という一次予防の視点が基本です。4つのケアをバランスよく組み合わせ、セルフケア・ラインケア・産業保健スタッフのケア・外部資源の活用が連動する体制をつくることが、職場のメンタルヘルス対策の理想的な姿です。

人事労務担当者・産業保健スタッフとして取り組む第一歩は、まずメンタルヘルスについての正しい知識を自分が持つこと、そして「相談しやすい職場の雰囲気」をつくる働きかけを継続することです。一人ひとりが自分らしくいきいきと働ける職場の実現に向けて、メンタルヘルスへの理解を職場全体の力として育てていただければと思います。