メンタルヘルス対策「4つのケア」とは?セルフケア・ラインケアなど各ケアの内容と実務のポイントを解説

公開日: 最終更新日: 執筆:一般社団法人メンタルセーフティー推進機構
メンタルヘルス対策「4つのケア」とはをテーマにしたブログ記事

職場のメンタルヘルス対策を進めるうえで「4つのケア」という言葉を耳にしたことがある人事労務担当者や産業保健スタッフの方は多いと思います。しかし、それぞれのケアが誰によって・どのような内容で行われるものなのか、どう連携させればよいのかについて、整理しきれていないケースも少なくないのではないでしょうか。当解説記事では、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)に基づく4つのケアの定義・実施主体・具体的な取り組み・実務のポイントまでを体系的に解説します。


メンタルヘルス対策「4つのケア」とは

4つのケアとは、職場における労働者の心の健康を保持・増進するために、厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケアの枠組みです。「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4種類からなり、それぞれが連携しながら継続的・計画的に実施されることが求められています。

「メンタルヘルス対策「4つのケア」とは?」をテーマに、各ケアの内容と実務のポイントを解説した記事の要約図
メンタルヘルス対策「4つのケア」とは?

4つのケアの法的根拠

4つのケアは、労働安全衛生法第70条の2に基づいて厚生労働大臣が定めた「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日・健康保持増進のための指針公示第3号、改正・平成27年11月30日)に規定されています。この指針は、事業者が職場においてメンタルヘルス対策を適切かつ有効に実施できるよう、基本的な考え方と具体的な進め方を示したものです。

なお、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」への対応は努力義務であり、4つのケアの実施や心の健康づくり計画の策定に法的な罰則規定はありません。ただし、ストレスチェック制度(年1回の実施)については常時50人以上の事業場への義務化が法律で定められており、2025年5月の法改正により50人未満の事業場への義務化も決定しています。

4つのケアが「誰が行うか」で分類される理由

4つのケアの大きな特徴は、「誰が行うメンタルヘルス対策なのか」という実施主体によって分類されていることです。セルフケアは労働者個人が、ラインによるケアは管理監督者が、事業場内産業保健スタッフ等によるケアは産業医・保健師・衛生管理者等の専門職および人事労務スタッフが、事業場外資源によるケアは外部の専門機関・専門家が担います。

この分類の意義は、「誰か一人・一組織がすべてを担う」のではなく、それぞれの立場が自分の役割を理解して動き、必要なときに連携することでメンタルヘルス対策が機能するという考え方にあります。労働安全衛生調査によると、仕事上の悩みやストレスの相談相手として「上司や同僚」が73.8%と上位にある一方、産業医・保健師等の医療職への相談割合は低水準にとどまっており、管理監督者を中心としたラインによるケアが現場での心理的ハードルを下げるうえで特に重要な役割を担っています。

4つのケアを推進するための基盤:心の健康づくり計画

4つのケアを効果的に推進するためには、事業場として「心の健康づくり計画」を策定し、その計画に基づいて各ケアを体系的に実施することが指針で推奨されています。計画の策定・実施の主体は事業者(会社)であり、衛生委員会での審議を経て実施することが求められます。

厚生労働省の指針では、心の健康づくり計画に盛り込むべき事項として以下の7項目が示されています。事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること、心の健康づくりの体制整備に関すること、事業場の問題点の把握およびメンタルヘルスケアの実施に関すること、メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保および事業場外資源の活用に関すること、労働者の健康情報の保護に関すること、心の健康づくり計画の実施状況の評価および計画の見直しに関すること、その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関することの7点です。

計画は策定して終わりではなく、定期的な評価と見直しを繰り返すPDCAサイクルを回し続けることが、メンタルヘルス対策の継続的な改善につながります。

ケア1:セルフケア

4つのケアの中で、最も身近で日常的に実践できるのがセルフケアです。労働者一人ひとりが主体となって行うケアですが、事業者はそのための環境整備・教育・情報提供を行う役割を担います。

セルフケアとは

セルフケアとは、労働者自らが自身のストレスに気づき、その原因に対処し、必要に応じて相談・受診につなぐ取り組みのことです。厚生労働省の指針では「労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防・軽減するか、あるいはこれに対処する」ことと定められています。なお管理監督者自身もセルフケアを実践することが求められており、4つのケアのうちセルフケアだけは管理職も実施対象に含まれています。

セルフケアの具体的な内容

セルフケアには大きく以下の内容が含まれます。

ストレスへの気づきとして、自身のストレス状態を定期的に確認する習慣を持つこと(ストレスチェックの活用・日記・セルフモニタリング等)が挙げられます。ストレスへの対処として、適度な運動・質の良い睡眠・バランスのとれた食事・休暇の取得・趣味や社会的つながりの維持などがあります。相談行動として、悩みを一人で抱え込まず、信頼できる人・産業保健スタッフ・外部相談窓口(「こころの耳」等)に相談することも重要なセルフケアの一部です。

事業者がセルフケアを支援するために行うこと

セルフケアは労働者個人が主体ですが、事業者はその実践を支援する環境づくりに取り組む必要があります。具体的には、メンタルヘルスに関する正しい知識・ストレスへの気づき方・対処方法についての教育研修・情報提供の実施、ストレスチェックの実施と結果のフィードバックによる気づきの促進、厚生労働省の「こころの耳」ポータルサイトや社内相談窓口の周知、有給休暇取得の促進や勤務間インターバルの確保といった環境整備が挙げられます。

ケア2:ラインによるケア(ラインケア)

4つのケアの中で、現場での実効性という観点から特に重要とされているのがラインによるケアです。管理監督者が日常的に部下と接する立場を活かして行うケアであり、早期発見・早期対応の鍵を握っています。

ラインによるケアとは

ラインによるケアとは、管理監督者が部下である労働者の心の健康保持・増進のために行う活動のことです。「ライン」とは組織の指揮命令系統(管理職ライン)を意味し、日常的に部下を観察・指導する立場にある課長・係長・チームリーダー等の管理監督者が実施主体となります。

厚生労働省の指針では、ラインによるケアの対象として「部下が不調に陥らないよう普段から配慮するとともに、部下に不調が見受けられた場合には安全配慮義務に則った対応」を行うことが求められています。管理監督者には事業者から安全配慮義務の一部が委譲されており、日常的な部下の状況把握と職場環境改善は管理監督者の重要な責務です。

管理監督者が担う5つの役割

厚生労働省の指針および「こころの耳」が示す内容をもとに、管理監督者が担うラインによるケアの具体的な役割を整理します。

  1. 日常的な部下の状態把握
    遅刻・欠勤の増加・業務のパフォーマンス低下・表情の暗さ・会話の減少・感情の不安定さなど「いつもと違う」サインを日常の業務のなかで観察します。
  2. 声かけと相談しやすい環境の整備
    気になる部下には管理監督者から積極的に声をかけ、話を聞く姿勢を示します。部下が自発的に相談できる雰囲気を日頃からつくることが、早期発見の環境整備になります。
  3. 相談対応と傾聴
    相談を受けた際には、解決策や叱咤激励よりも「話を丁寧に聴くこと(傾聴)」を優先します。管理監督者がすべての問題を解決する必要はなく、「聴く・受け止める・つなぐ」の姿勢が基本です。
  4. 産業保健スタッフ等への橋渡し
    自分の判断や対応に限界を感じた場合は、速やかに産業医・保健師・人事労務担当者へ情報を共有し、適切な専門家につなぎます。管理監督者が一人で抱え込むことは状況を悪化させるリスクがあります。
  5. 職場環境の改善
    部下の不調の背景にある業務量・人間関係・役割の問題などの職場環境上のストレス要因を把握し、改善のための具体的な行動をとることも管理監督者の役割です。

ラインによるケアを機能させるための事業者の取り組み

ラインによるケアの実効性は管理監督者の知識・スキルに大きく依存します。厚生労働省が2022年に実施した「こころの耳」調査では、管理職の約6割が「どのように声をかけていいかわからない」と回答しており、このためらいが不調者の放置・悪化につながるケースも少なくありません。

事業者はこの現状を踏まえ、管理監督者向けのラインケア研修の定期実施(傾聴スキル・不調のサインの見分け方・相談対応の実践演習等)、相談を受けた際の対応フローの明文化・周知、管理監督者自身が産業保健スタッフに相談できる体制の整備、ラインケアを「業務の一部」として評価する人事評価の仕組みの整備などに取り組むことが重要です。

ケア3:事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内の専門職・担当者が連携して行うケアが第3のケアです。セルフケアとラインによるケアを支援し、個別の専門的な対応を担う重要な役割を持ちます。

事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは

事業場内産業保健スタッフ等によるケアとは、産業医・保健師・衛生管理者・心理専門職(公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラー等)・人事労務管理スタッフなど、事業場内の専門職および担当者が連携して行うメンタルヘルスケアのことです。「等」に人事労務スタッフが含まれるのは、健康情報と人事・労務情報を連携させることが不調対応・職場環境改善において不可欠なためです。

指針では「事業場内産業保健スタッフ等は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者および管理監督者に対する支援を行う」役割が期待されています。

各スタッフの主な役割

産業医は、医師としての専門的知見に基づく健康管理・就業判定・意見書の作成・職場巡視・高ストレス者への面接指導・衛生委員会への出席等を担います。産業保健師は、日常的な健康相談・保健指導・ストレスチェックの実施・高ストレス者への初期対応・各スタッフ間の調整・コーディネートを担います。衛生管理者は、職場の衛生管理の実務・週1回以上の作業場巡視・衛生委員会での審議への参加等を担います。心理専門職は、個別カウンセリング・心理的アセスメント・ストレスチェックの実施(研修修了の場合)等を担います。人事労務担当者は、制度の整備・休業・復職手続きの管理・勤怠情報の共有・職場環境改善の推進等を担います。

産業保健スタッフが担う中心的機能

産業保健スタッフは、セルフケアとラインによるケアが有効に機能するための「縁の下の力持ち」として機能します。具体的には、管理監督者から相談を受けて対応方法をアドバイスすること、不調が疑われる労働者に対して面談を行い医療機関への受診を勧めること、ストレスチェックの集団分析結果をもとに職場環境改善を提案すること、休職者の職場復帰支援における関係者間の調整を担うことなどが中心的な機能として挙げられます。

ケア4:事業場外資源によるケア

4つのケアの最後は、社外の専門機関・専門家の力を借りて行うケアです。社内リソースだけでは対応が難しい課題に対して、外部の専門性を活用することで対策の幅が広がります。

事業場外資源によるケアとは

事業場外資源によるケアとは、企業の外部にある専門機関・専門家からの支援を活用してメンタルヘルスケアを推進する取り組みのことです。特に産業医・産業保健師の選任義務がない50人未満の小規模事業場にとって、事業場外資源の活用は、社内に専門職がいなくてもメンタルヘルス対策を実践するための重要な手段となります。

また、50人以上の事業場においても、「相談内容が社内に知られることへの不安」から社内相談窓口に相談しにくいと感じる労働者は少なくありません。第三者である外部機関への相談窓口を設けることで、社内への相談ハードルを下げる効果が期待されます。

主な事業場外資源の種類と特徴

活用できる代表的な事業場外資源を整理します。

資源の種類 主な機能・特徴
産業保健総合支援センター
(さんぽセンター)
都道府県ごとに設置。産業医・産業保健師の紹介・相談・研修を無料で提供
地域産業保健センター 50人未満の小規模事業場向けに医師面談・産業保健相談を無料で提供
EAP(従業員支援プログラム)機関 電話・オンライン・対面でのカウンセリングを企業と委託契約で提供
精神科・心療内科 精神疾患の診断・治療。主治医として治療と仕事の両立支援にも関与
中央労働災害防止協会(中災防) メンタルヘルス対策の研修・コンサルティング・教材提供
こころの耳(厚生労働省) 働く人向けの電話・SNS・メール相談。無料・匿名で利用可能

事業場外資源を効果的に活用するためには、自社の課題と不足しているリソースを明確にしたうえで、目的に合った機関を選ぶことが大切です。活用の際は、社内での情報共有の範囲・守秘義務のルール・費用負担の取り決めを事前に整理しておくことも重要です。

4つのケアの連携と実務上のポイント

4つのケアはそれぞれが独立して機能するものではなく、連携することで最大の効果を発揮します。指針では「4つのケアが継続的かつ計画的に実施されること」が基本とされており、各ケアが孤立して動くのではなく相互に補い合う体制が求められています。

連携のイメージとして、セルフケアで自分のストレス状態に気づいた労働者が、ラインによるケアで管理監督者に相談しやすい環境があることで早期に声を上げられ、産業保健スタッフが専門的に対応しながら必要に応じて外部機関につなぐ、という流れが機能することが理想的です。実務上の重要なポイントとして3点挙げます。

  • 情報連携のルールを明確にすること
    各ケアの担い手が情報を共有する際の範囲・方法・守秘義務の取り扱いをあらかじめ定めておかないと、「伝えてよかったのか」という迷いが生じ、連携が機能しません。
  • 管理監督者が一人で抱え込まない仕組みをつくること
    ラインケアの担い手である管理監督者が疲弊・孤立しないよう、産業保健スタッフや人事労務担当者がすぐに相談に乗れる体制を整えておくことが実務上の要点です。
  • 小さく始めて継続すること
    すべてのケアを完璧に整備してから始めようとするよりも、まず取り組みやすいところ(管理職向け研修の実施・相談窓口の設置・こころの耳の周知等)から始め、PDCAを回しながら継続することが対策の定着につながります。

メンタルヘルス対策「4つのケア」に関するよくある質問

Q 4つのケアの実施は法律上の義務ですか?
A

4つのケアの実施自体に法定の義務はなく、厚生労働省の指針に基づく努力義務に位置づけられています。ただし、ストレスチェックの実施は常時50人以上の事業場に義務化されており(2025年5月改正で50人未満にも義務化決定)、実施しなかった場合は罰則の対象となります。また、安全配慮義務の観点から、メンタルヘルス不調への対応を怠った場合には民事上の損害賠償責任が問われるリスクがあります。

Q 4つのケアのうち最も優先すべきはどれですか?
A

優先順位はなく、4つのケアはいずれも重要であり連携して機能します。ただし現場でメンタルヘルス不調の早期発見に最も貢献するのはラインによるケアとされており、「管理監督者が気づく・声をかける・つなぐ」という流れが機能するか否かが対策全体の実効性を大きく左右します。まず管理監督者向けのラインケア研修の実施と、産業保健スタッフへの橋渡しの仕組みを整えることが、実務上の優先度が高い取り組みといえます。

Q 産業医がいない50人未満の小規模事業場では何から始めればよいですか?
A

地域産業保健センター(さんぽセンター)の無料相談サービスの活用から始めることをお勧めします。さんぽセンターでは産業医による従業員面談・メンタルヘルス相談・職場巡視等を無料で利用できます。また「こころの耳」の電話相談・SNS相談窓口を社内に周知し、管理職向けの簡易的なラインケア研修をeラーニングで実施することも比較的取り組みやすい出発点です。

Q セルフケアとラインによるケアはどう違いますか?
A

最大の違いは実施主体です。セルフケアは労働者自身が自分のストレスに気づき対処する取り組みであり、ラインによるケアは管理監督者が部下の状態を観察し必要に応じて支援する取り組みです。両者は相互補完的な関係にあり、セルフケアで気づきにくい不調を管理監督者が日常的な観察で発見するラインによるケアが機能することで、早期対応の可能性が高まります。

Q 事業場外資源(EAP等)を導入する際の注意点はありますか?
A

目的の明確化・守秘義務の確認・費用対効果の評価の3点が重要です。EAP機関を選ぶ際は、提供サービスの内容(電話・オンライン・対面の別)・対応できる言語(外国人労働者がいる場合)・相談内容の守秘義務の範囲・企業へのフィードバック方法を事前に確認します。また導入後は利用率・利用者の満足度・社内相談件数の変化などを定期的に評価し、必要に応じてサービス内容を見直すことが大切です。

Q 管理監督者がラインによるケアを実施する際、どこまで部下の健康情報を把握してよいですか?
A

業務上必要な範囲での観察・声かけは管理監督者の正当な職務の範囲内ですが、診断名・治療内容・プライベートな家族の情報などは、本人の同意なしに産業医や人事部門から開示することはできません。管理監督者は「業務への影響」という観点から状況を把握し、個人の詳細な健康情報は産業保健スタッフに委ねる役割分担の原則を守ることが重要です。

Q 心の健康づくり計画はどのように策定すればよいですか?
A

衛生委員会で審議のうえ策定することが基本です。計画には厚生労働省の指針が示す7項目(事業者の推進表明・体制整備・問題点の把握と実施・人材確保と外部資源活用・健康情報の保護・評価と見直し・その他の措置)を盛り込みます。厚生労働省の「職場における心の健康づくり」パンフレット・「こころの耳」eラーニング等を参考にした計画のひな形も活用できます。産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談すれば、計画策定の支援を受けることも可能です。

4つのケアを「制度」から「文化」へ

4つのケアは、制度として整備するだけでは真の効果を発揮しません。管理監督者が日常的に「気づく・声をかける・つなぐ」を自然に行い、労働者が「相談していい」と感じられ、産業保健スタッフがその橋渡し役として機能する——こうした「文化」として職場に根づいてはじめて、メンタルヘルス対策は意味を持ちます。

当解説記事でご紹介したとおり、4つのケアはそれぞれが異なる実施主体を持ち、相互に連携することで機能する仕組みです。人事労務担当者・産業保健スタッフとして取り組む際は、まず自社の現状でどのケアが弱いか・どこに連携の欠落があるかを点検し、優先的に整備すべき部分から着手することをお勧めします。

完璧な体制をいきなり構築しようとするよりも、管理職研修・相談窓口の整備・ストレスチェックの活用・さんぽセンターへの相談といった取り組みを一つひとつ積み上げ、継続することが職場のメンタルヘルス文化の醸成につながります。